news zeroメインキャスター・有働由美子さんの人気連載「有働由美子のマイフェアパーソン」。コラムニスト・ラジオパーソナリティのジェーン・スーさんと対談した第52回を一部公開します。(「文藝春秋」2023年5月号より)

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インパクトあるタイトルの由来

 有働 昨年末刊のエッセイ集『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)と、3月24日発売のインタビューエッセイ『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)。立て続けのご出版おめでとうございます!

 スー ありがとうございます。

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ジェーン・スー氏(左)と有働氏 ©文藝春秋(有働氏衣装協力 ポール・スチュアート/ルシオール)

 有働 前からスーさんに聞きたかったことがあるんです。2013年のデビュー作『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)以来、絶対タイトルで手に取っちゃうんです。このインパクトあるタイトルは誰がどう決めているんですか?

 スー 2作目までは編集者の意向が大きかったですね。デビュー作のタイトルは、版元の社長から「もっとインパクトのあるタイトルはないのか」と押し戻された編集者が、「だな」を発売会議の最後で付けて。

 有働 エイヤッと出したと。

 スー はい。2作目の『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)は、私がブログのエントリーのタイトルにしていたものを、編集者がそのまま使わせてほしいと言うので、どうぞということで決まりました。

 有働 この作品で講談社エッセイ賞を受賞されたんでしたね。

 スー それ以降のタイトルは自分で考えています。私の書く文章には、なんとなく長いタイトルが好まれるんだなと思っています。『おつかれ、今日の私。』は短い方かもしれません。

レコード会社の手法で自分を売る

 有働 本の略歴の1行目には「東京生まれ東京育ちの日本人」(笑)。“ジェーン・スー”は芸名であり、ラジオパーソナリティとしてはTBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~木曜、午前11時~午後1時)やポッドキャスト番組などでご活躍です。大学卒業後は会社員生活を送っていたんですよね。

 スー 新卒でレコード会社に入社し、その後転職して音楽業界には9年勤務しました。アーティストの宣伝を担当していたので、今も本名の私がジェーン・スーを担当しているような思考になります。

 有働 本名の自分から見てジェーン・スーはどんな存在ですか。

 スー 担当した中で一番言うことを聞く存在ではあります。

 有働 じゃあ扱いやすい?

 スー ただ、瞬発力とか天才性がないので、積み上げていかないとダメなタイプだなと思っています。

 有働 人前に出る仕事だと、現実に目をつぶって自分の才能を信じないとガックシきちゃって続けられなくないですか。

 スー 才能がない自分に落胆することは全然ないです。そもそも期待値が高くないですから。担当する人が一番輝く方法で売り出すのがレコード会社での仕事だったので、ジェーン・スーに関しても「自分という冷蔵庫の中にあるストックで夕飯を作ればいい」と割り切っています。

 有働 なんと客観的で潔い!

『おつかれ、今日の私。』を読んで思ったのが、自分では客観視できない・したくないことを、スーさんが言語化してくれているということ。しかも「みんなそうだから大丈夫よ」と肯定してくれるような感覚があって、自分で自分を認められる気持ちになる。この本は意識的にそういう方向性にされたんですか。

『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)

 スー そうですね。収録されたエッセイ48篇は主にコロナ禍で連載したもので、社会のムードによって疲れた人がたくさんいるのを体感していた時期でした。デビュー作を書いた頃は時代がまだ元気だったので、半分自虐で強めに言い切っても読者にダメージを与えなかった。けど今は時代の強度が下がっていると思うんです。

 有働 時代の強度?

 スー はい、時代の感受性というか。今はボロボロになった友達を慰めるような書き方でないといかんなと思って、自分を労るような感じも含めて意識的に書きました。