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「行き遅れギャグ」で炎上?

 有働 スーさんの時代認識には、激しく頷いちゃう。実は、スーさんとは5年ほど前の女子会でお会いしたことがあります。私、その頃まで自虐ネタが鉄板だったんです。4年制大学を出てNHKに入ってレギュラー番組を持ってとなると、恵まれすぎて見えるがゆえに自虐も必要だったというか。

 スー 「行き遅れギャグ」みたいなのを女だけのメンツでもやっていらっしゃいましたよね。なかなか厳しい環境にいるんだろうと思いました。自虐が常態化しているということは、それをやっておくのが自分にとって安全だからじゃないですか。

 有働 そうです、そうです!

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 スー 「有働さん、戦士!」と思いましたよ。その時。

 有働 お恥ずかしい。でも今は、自虐をするとむしろ逆効果というか下手したら炎上しちゃうんです。

 スー 女性の自尊感情の持ち方について再定義が進んだのは大きいですよね。ヘルシーな変化ではあるけど、過渡期だとも思います。自分のことをちょっと面白おかしく言うことすら他者に咎められるのは行き過ぎとも思うんです。今はみんな受け流す余裕すらないんだろうなと、ラジオをやっていて思います。

 有働 例えばどんなことですか。

 スー 毎回100件以上来るメールの感想や、放送後のSNSの反応をみていると、みんな傷つきやすくなっているというムードがありますね。今はそのムードから外れると、“異教徒”のように叩かれるから難しいところですね。

 有働 炎上してしまうような地雷を踏まないように、気をつけていることはありますか。

 スー 必ず反対側の立場の人をフォローする、10年前笑えたことでも今も笑えるかを再確認する、自分が強者であることを絶対忘れない……というくらいですかね。それでも失敗することはありますけどね。

 有働 地雷を平気で踏むおじさんたちがいるじゃないですか。政治家とか言論界隈とか。その人たちはどうしたらわかってくるんだろう。

 スー 何とも感じていないだろうからたぶん直らないかな。政治家はSNSで何を言われようがそこは票田じゃないと思っている。既得権益を持っている人にとっては、自分たちの階層でしかパス回ししないから直す気もないんだろうなと。

 有働 一方で女性の中で言うなら、私も一応、強者ではあると思います。でも強者の中にも弱者の部分が、いっぱいあって。

 スー はい、もちろん。

 有働 『おつかれ、今日の私。』は、私みたいな強者もそうでない方も「うんうん」とうなずけるような内容になっていますね。

 スー そうあってほしいですね。大きな主語を使って公的なことを言うより、ごく私的なことを書く方が多くの人に我が事として捉えてもらえるなという実感はあります。

最新刊『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)

 有働 女とは~とか国家とは~ではなく、ジェーン・スーがこう思ったという伝え方の方が響きますか。

 スー その方が共感を持ってもらえることが多いと思います。一方で、私はネット上で自分の本の感想を読んでハッとさせられることが多くて。解釈に自分では持てなかった視点があったり、こう言えばわかりやすかったんだという表現があったりして。自分の中にあるものだけだとやっぱり頼りないし、飽きるし。

 有働 ああ、わかる。

 スー だから読者との対話はすごく大事。それと、自分の中にあるものを外に出して切り離すことで客体化して咀嚼する。だから、誰かと話すのが一番有意義で、そのために生きている感じですね。

 有働 そこまで言い切っちゃう!

 スー はい。そういう瞬間に「なるほどねー!」と叫んでバターンと倒れて死にたいです。

「有働由美子のマイフェアパーソン」第52回・ジェーン・スー「ボロボロの友達を慰めるように書く」全文は、「文藝春秋」2023年5月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

この記事の全文は「文藝春秋 電子版」で購読できます
「ボロボロの友達を慰めるように書く」