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高市早苗のネトウヨバブル崩壊

 日韓首脳会談のさなか、国会では放送法の政治的公平性に関する行政文書を「捏造」と断じた高市が野党の標的と化していた。より正確に言えば、高市は自ら標的を作り出してオウンゴールを積み上げていた。「怪文書」「不正確な捏造」「信用できないなら質問しないで」……口を開く度に自爆していく。

 これに高みの見物を決め込んでいたのは、ほかならぬ岸田だった。

「総務省において精査する必要がある。従来の解釈は変わっておらず、報道の自由への介入との指摘は当たらない」と、木で鼻を括ったような答弁に終始。

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 しかも総務相の松本剛明は早々と「全て総務省の行政文書である」と認めてしまったのだ。これには裏がある。もともと高市を快く思っていない自民党副総裁の麻生太郎が、自らの派閥に所属する松本を「早く認めてしまったほうがよい」と使嗾したとの情報が、麻生周辺から漏れ伝わる。

高市早苗氏 ©時事通信社

 自民党の閣僚経験者は「本来は重要な問題なのに、高市と立憲民主党の小西洋之のバトルに矮小化されてしまった。どっちもどっちだが、小西は『安倍の負の遺産』を叩いているだけ。その結果、岸田政権が相対的に浮上している」と見立てる。その通り、内閣支持率は上昇し、小西は結果として岸田に追い風を送っていたことになる。

 面白くないのは立憲民主党代表の泉健太である。「しょせん小西が1人でやったことだし、もういいよ」と突き放す。かくして、放送法の解釈を巡る重大な問題は孤立した者同士の醜い活劇に変質してしまったのだ。

 もともと高市は、安倍がポンプで膨らませた空気人形でしかなかった。一昨年8月、自民党総裁選への出馬を真っ先に表明して、高市は名を上げた。安倍は当初、現職首相の菅義偉が続投するなら支援する腹積もりで、いったんは高市支援を断る。だが、菅の足元が揺らぎ始めると、安倍は高市を全面的に推し、安倍派を中心に票集めに奔走した。さりとて高市が宰相の器ではないことは、安倍も見切っていた。高市支持票をある程度固めたうえで、決選投票でその票を岸田に乗せ、岸田に恩を売って政権に影響力を発揮する……これが基本戦略だった。要するに、高市はその目的達成の手段に過ぎなかった。

 だが、保守派の受け止めは違った。「高市が日本を救う」。そう勘違いした層がいわゆるネトウヨを中心に少なくない。そのバブルが今回ようやく弾けたわけだ。

月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」全文は、「文藝春秋」2023年5月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

文藝春秋

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