「異次元の少子化対策」「新しい資本主義」など、独自の政策を矢継ぎ早に打ち出した岸田文雄首相の支持率が上昇し始めている。
だが、強いメッセージ性やカリスマ性のない岸田首相には「何を考えているのかわかりにくい」「やりたいことがよく伝わってこない」といった批判もある。
そこで岸田首相の「頭の中」を覗いてみようと、脳波を測定するプロジェクトを「文藝春秋」編集部が企画した。
岸田首相が語り合うのは、伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOと脳科学者の中野信子氏。
伊藤忠商事は独自の少子化対策と働き方改革で、社内の出生率を3倍に引き上げた。その成功の秘訣や、日本を“稼げる国家”にするための構想をざっくばらんに話しながら、中野氏が脳波を測定・分析するという、まさに前代未聞のプロジェクトである。
はたしてその結果やいかに――?
「110運動」で出生率を3倍に
伊藤忠商事の出生率は、2012年度に0.60だったのが、21年度に1.97と、10年間で3倍に向上した。伊藤忠の働き方改革から学ぶべき、少子化対策に活かせるヒントは何なのか?
〈岸田 今日はぜひその話をお伺いしたかったのです。
岡藤 当社は2010年から働き方改革を推進しています。まずは社内に託児所を作りました。親は子どもを身近なところに置いておきたいものですからね。次に、健康憲章の制定やがんと仕事の両立支援など、整備してきました。
一連の働き方改革のなかで、少子化対策に最も効果的だったのが「朝型勤務」の導入です。午後8時以降の残業を原則禁止としました。朝に集中して働く。その代わり、早朝勤務には残業手当を1.5倍出します。
加えて「110運動」で朝型勤務を強化しました。会食は「1次会、10時まで」という意味です。無駄に長時間飲み歩かない。夜の会食も生産性の高い時間の使い方に改め、翌朝は二日酔いにならず、効率的で健康的な働き方にしようと。韓国のサムスンに「119」というのがあって、「飲み会は1次会まで、飲むお酒は1種類、夜9時まで」という運動なのですが、これを参考にしました。ただ、伊藤忠は9時にお開きにするのは無理だろうということで、10時までにしました。