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「ここで僕の人生も終わるのか…」12歳の池上彰が死を覚悟した「第三次世界大戦」が起きかけた日

『世界史を変えたスパイたち』 #1

2023/04/15
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 ペンコフスキーがキューバでのミサイル基地に関する計画案を伝えたことで、基地建設の事実が明らかになったのです。ペンコフスキーはのちに、アメリカのNSA内にいたKGBのスパイによって裏切り行為をソ連に通報され、処刑されています。ウィンも同時に逮捕されましたが、アメリカに逮捕されたソ連のスパイとの交換で釈放されています。

 キューバでのミサイル基地建設に対しては、「とにかく先手を打って、キューバのミサイル基地を空爆すべきだ」という強硬論もありましたが、ケネディ大統領はキューバ周辺でまず海上封鎖を行い、核弾頭を運ぶソ連の艦船の入港を食い止めようと考えます。10月22日夜、ケネディはテレビ演説で「ソ連のミサイルが持ち込まれた可能性があるので、キューバを封鎖、隔離する」と発表しました。

「ここで僕の人生も終わるのか」

 当時、私は小学校6年生でした。日本のテレビや新聞でも核戦争の可能性が報じられたため、「ここで僕の人生も終わるのか」と危機を身近に感じたのを覚えています。

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 ソ連の艦船が迫る中、アメリカ政府内でも「やはり海上で沈没させるべきだ」というような意見が出ますが、ケネディはそうした意見に耳を貸さず、水面下での交渉や国連安保理を通じてソ連に対しミサイル撤去を要求します。

 10月27日にアメリカの偵察機がキューバ上空で地対空ミサイルにより撃墜されたことで、緊張感が一層高まります。そんな中でキューバを海上封鎖したアメリカ軍は、核ミサイルを運ぶ貨物船を護衛しているソ連軍の潜水艦を浮上させるため、潜水艦の周辺に機雷を投下するという一手に出ます。

 驚いたのはソ連の潜水艦です。間近で機雷が爆発したことで、潜水艦の艦長は「核戦争が始まった」と判断。潜水艦に搭載していた核魚雷を発射するかどうかの瀬戸際に至りました。潜水艦の乗組員は「核を撃たれたら、こちらも核を撃ち込め」と命じられていたからです。まさに一触即発、核戦争が間近に迫る、切迫した事態になりました。