犯人女性たちは「ドッキリ映像に協力しただけ」と証言
かけられた液体は、二つが合わさるとVXガスという殺人ガスを発生するものであったことが、遺体の解剖によって判明しました。これらの液体は別々に持っている限りは安全ですし、危険物だとは見破られにくい。金正男に液体をかけた女性たちは、「ドッキリ映像を撮るから協力してくれと言われたから液体をかけたただけで、何も知らなかった」と証言しました。北朝鮮のプロの工作員の書いた筋書きに乗せられ、一般の外国人が要人暗殺の実行犯になってしまったのだからたまりません。
本来、北朝鮮側の狙いは、「飛行機に搭乗した後、機内で心臓マヒを起こし、急死する」というものだったのでしょう。行き先は中国の管轄下にあるマカオの空港ですから、どうにでも誤魔化しが利くだろう、と考えたのかもしれません。しかし、効果が出るのに時間がかかるはずだった毒ガスは、思ったよりも早く金正男の命を奪うことになり、事件が露見することになりました。
しかも、この事件の発生から、金正男が命を落とすその瞬間までが、空港の監視カメラに写っていました。その映像は瞬時に報道され、これまた世界中を震撼させることになったのです。
北朝鮮とマレーシアはそれまで国交があり、平壌とクアラルンプール間にも直行便が飛んでいました。そのため、マレーシアには北朝鮮の幹部が多く訪れており、外交官や大使館員同士の水面下での交渉なども、マレーシアで行われることが多かったほどでした。しかしこの事件で、マレーシアは北朝鮮と国交を断絶。北朝鮮は暗殺という目的は達成できたものの、その代償として払わされたものもまた大きかったのです。
こうした「昔ながら」とも言える暗殺を行った北朝鮮ですが、一方で早い段階からサイバー方面にも力を入れています。
有名なのは、2014年に公開(日本では未公開)された金正恩の暗殺計画を描いた映画『ザ・インタビュー』を配給したソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに対するサイバー攻撃です。
北朝鮮は攻撃によって職員などの情報を盗み出し、さらに「9・11を忘れるな」と、劇場に対するテロを示唆するなど、配給会社を脅迫。結局、アメリカの一部の地域を除き、映画は公開中止に追い込まれました。