阪神タイガース、千葉ロッテマリーンズで活躍した元プロ野球選手の鳥谷敬氏。彼は、「人がしていないことにこそ価値が生まれる」という思いを抱きながら、18年にわたるプロ野球人生を送ったという。

 ここでは、そんな鳥谷氏が現役時代のエピソードを踏まえながら、独自の「人生訓」を綴った『他人の期待には応えなくていい』(KADOKAWA)より一部を抜粋。鳥谷氏が2013年のWBCで成功させた「神盗塁」の裏話を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

鳥谷敬氏 ©文藝春秋

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プロ1年目、試合前にメモを取るのをやめた

 プロ1年目のことだった。

 翌日から新しい対戦相手との3連戦が始まるときに、スコアラーを中心とした全体ミーティングが行われる。ルーキーだったわたしは、その内容を「ひと言も聞きもらすまい」と真剣に耳を傾け、ホワイトボードに書かれたものを必死にメモしていた。

 しかし、チームの主力選手たちはほとんどメモを取っていないことに気がついた。ノートに向かってひたすらペンを動かしているのは試合に出ていない選手ばかり。金本知憲さんや赤星憲広さん、今岡誠(現・真訪)さんなど、チームの中心だった選手は試合前のミーティングの内容をメモすることはほとんどなかった。むしろ、試合中や試合直後に、その日感じたことをメモしていたのだ。

 このときから、わたしは試合前にメモを取ることをやめた。その代わりに頭をフル回転させて、ホワイトボードに書かれている内容を自分なりにイメージすることに努めた。

「こういう場面、自分ならこうするよな……」

「この投手の場合、自分ならスライダーを狙うだろうな……」

 スコアラーが提示するデータやコーチからのアドバイスを自分のなかできちんとイメージしたうえで、ミーティングに臨むようにしたのだ。