「80年代はぼくと細野さんは仲が悪かったんだ。そう打ち明けたら、彼はそんなことは100年前から知ってる、ファンはみんなわかっている、だって(笑)」

 一時は微妙な関係だった、YMOの3人が史上最高に仲良くなれた理由とは? 編集者でライターの吉村栄一さんの著書『YMO1978-2043』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

坂本龍一・細野晴臣・高橋幸宏の3人が「史上最高に仲良く」なれた日とは―― ©ANP/時事通信フォト

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YMOという強迫観念の消失

 2009年はいよいよHASYMOからYMOへの変身、あるいは移行、もしくは偏移の年となった。

 HASYMO最後の活動はなんと携帯電話とのコラボレーション。2009年1月、NTTドコモは第三世代携帯電話(FOMA)の新機種としてNA-04Aを発売した。

 著名な家電デザイン企業amadanaのデザインによるデザイン重視のこの携帯電話にはHASYMOが協力し、着うたフルとしてHASYMOの3人による共作のインスト曲「グッド・モーニング、グッド・ナイト」がプリセットされた。

 さらに細野晴臣と高橋幸宏が手がけた着信音・メロディ・アラーム音が14曲(音)も入っている。

 14の内訳は、細野晴臣曲の「セサミ」「ブルー・ヘヴン」「アテンション」「グッド・ニュース」「アラーミング」「リング・リング」「マーキュリー」「エアロ」「オープン・セサミ#1」「同#2」「クローズ・セサミ#1」「同#2」と、高橋幸宏による「ホープ」「ア・ヒント」(これ以前の2005年に坂本龍一は北欧の電話機メーカー・ノキアの携帯電話Nokia 8801に着信音やアラームを提供したことがある)。

 しかしこの、携帯電話とのコラボレーションが、いまのところHASYMOの最後の活動となっている。

 というのも、この後、YMOはHASYMOなど他の名義の使用をやめてYMOを名乗って活動するようになったからだ。

 これはいよいよ腹を括ってYMOに取り組むということもあったのだろうし、単純にYMOなんだからYMOでいいんじゃないかという開き直りもあったとのことだ。

「名前はどうでもいい」

 この2年後の2011年のインタビューで、3人はこう言っている。

細野「3人とも同時期にそうなったと思うんだけど、名前がどうでもよくなったんだよね(笑)」

高橋「そうそう(笑)」

細野「それまでは真剣に考えていたよね」

高橋「うん。あと、昔の曲はやりたくないとかね」

細野「うん、そういうこだわりがあった」

坂本「それが、いや、べつにやってもいいんじゃないの、と変わってきたんですよね」

高橋「そうだ。なんでやっちゃいけないんだ! と(笑)」

細野「名前もそれと同じで、YMOという名称は使っちゃいけないんだという強迫観念があった。それでいろいろ手を変え品を替え名前をいじくり回してたんですよ。HASYMOとか、おお、いい名前だなあと思ってたんだよね」

坂本・高橋「(爆笑)」

細野「そう、よく考えたらHASYMOなんてわかりにくいじゃん! って気づいちゃった(笑)。だったらYMOでいいんじゃないかと」

坂本「気づいてしまったんですね、そこに(笑)」