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部活の倉庫の鍵ですか?

 施錠されていないドアを開けると、なんと1泊1万3000円(同日の価格)の宿なのに受付に誰もいない。かわりに小さなホワイトボードに、担当者の電話番号と「席を外しています」という日本語と英語のメッセージが書かれていた。

無人の受付。ホワイトボードの文字はかなり以前に書かれたようだ。電話番号は海外派出所の連絡先とは別であり、実際に電話を掛けてみたところ、やる気がなさそうな中国人のバイト君が出た。ボスはここを含めて複数の民泊を経営しているという。

 どうやら、事前に予約サイト経由で送られた4桁の暗証番号を入り口脇のキーボックスに打ち込み、部屋の鍵を受け取る方式らしい。ボックスを開けてみると、写真のように非常に安っぽい鍵が出てきた。

やる気がゼロの鍵。これ、中学校の部活の倉庫の鍵とかでよくあるやつでは……?

 建物内に誰もいないので、写真と動画を撮りながら各フロアを見て回る。最上階の海外派出所の部屋以外、他のフロアはいずれも客室のようだ。敷地面積が狭い物件なので、部屋は各フロア1~2室である。私が泊まる部屋は2階で、フロアに1室だけだった。

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どう見てもインバウンド向け民泊では…

 部屋に入ってみると、クイーンサイズのベッドがふたつあり、意外とこぎれいで広かった……。のだが、かなり異色の内装だ。ベッドの頭の方向の壁には、なぜか障子の格子があり、そのなかに和風の鯉の絵の安っぽいカラースクリーンが貼られている(写真参照)。さらにベッドの向かいの小上がりには、正方形の縁のない畳が敷かれており、なぜか掘りごたつがあった(ただしこたつ布団はない)。

 
海外派出所ホテルの室内。なお押し入れが開きっぱなしなのは入室時点から。和風なのか洋風なのかどっちなんだ。

 押し入れはなんと、入室の時点で引き戸が半分開きっぱなしで、予備の寝具が(いちおう畳まれていたが)乱雑につっこんであった。風呂はマンション仕様のユニットバスだ。

 従業員が常駐しない仕組みや鍵のタイプ、さらに部屋の内装や片付け方といった特徴から判断する限り、「ホテル」というカテゴリーの宿泊施設なのかは微妙なところである。コロナ前にインバウンド需要を当て込んで都内に雨後の筍のように作られた、中国人経営の民泊だと考えたほうがしっくりきそうだ。事実、部屋のWI-FIパスワードは2020年の東京オリンピックにちなんだ文字列だった。

浴室は狭いが清潔。写真には写っていないが、ちゃんとシャンプーとリンスが置いてあったのでえらい。海外派出所でも「キレイキレイ」で手を洗う模様である。

 建物内の監視カメラは、なんと入り口にひとつあっただけで、階段や各フロアには設置されていない。受付に人がおらず入り口もオートロックなどではないため、宿泊客ではない人物でも、外部から24時間出入り自由である。もちろん部屋の鍵は例のショボいやつひとつだけだ。日本の普通のマンション以下のセキュリティである。

誰もいないので写真をとりまくれる。こちらは1階の受付の奥に張られていた、海外 派出所ホテルの寝具やタオルの管理メモ。

 他の宿泊客を観察してみると、1階に韓国人客1人、3階に中国語を話す数人の家族客(台湾人らしき印象だ)、4階に東欧系のカップルが泊まっていた。すこし会話できた韓国人客によれば、ここが「海外派出所」だとはまったく知らず、日本に旅行に来たので予約サイトで適当に見つけた宿に泊まっただけだという。