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 荒れはてているのは私道だけではない。すっかり錆びついた街灯にもツタは容赦なくからみつき、夜になっても灯りがともることはない。それどころか、根元からへし折れて路肩に転がっている街灯を目にしたこともある。側溝も、タイヤが脱輪できる状態であればむしろ正常であり、砂泥が詰まって排水機能がまったく失われていたり、そもそも側溝のコンクリート自体が著しく破損して、土砂に埋まったたんなる瓦礫と化したりしていることもある。

 分譲地によっては小さな公園が備えられていることもあるが、朽ちはてて崩れおちた遊具やベンチの存在が視認できれば、そこが公園だとわかるだけまだよいほうである。子育て中の世帯もなく、足を踏み入れる者もなくなった公園は、やはり雑草や雑木が生え放題で、一見するとたんなる雑木林であり、よほど注意深く観察しないかぎり、もはやそこが公園であったことすらわからない。

 閉山して住民の姿が消えた鉱山町でもあるまいし、現在も住民が暮らす現役の住宅地が、なぜそのような事態に陥っているのか。そこには千葉県北東部の分譲地がかかえる固有の地域的事情がある。

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高齢化で迫る“限界”

 いま、全国各地に、市場価格が低く売却が見込めない、居住地が遠く利用の予定がないなどの理由で、権利者が相続登記をおこたっている不動産がある。

 それが「所有者不明土地」と化し、私道の修繕をはじめとした住宅地の環境維持における深刻な障壁と化していることは、以前より識者のあいだで指摘されてきた。老朽化が進み、設備更新の時期を迎えているにもかかわらず、連絡手段が失われた共有持ち分所有者の合意がとれないために、補修が進まない事例が各所でみられるようになっていく。

 

 そうした所有者不明土地の問題は、2011年に起きた東日本大震災によっていっきに噴出し、大きな注目をあびた。復興事業の途上において、所有者を特定できない不動産の存在が、住宅移転事業や公営住宅建設のための用地買収などの障害となる事例がたびたび発生し、大きな問題となった。

 被災自治体からのあいつぐ要望を受け、ついには国も本格的な対策に着手し、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の制定や相続登記の義務化(2024年度施行予定)など、所有者不明土地の流通や再利用をうながすための法整備が進められている。