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 賃貸オーナーにせよ、その賃貸物件の入居者にせよ、自己所有の世帯にくらべて共用部への関心は高くない。収益利回りを重視する賃貸経営者は例外なくよぶんな経費を嫌うものであるし、入居者にしても、みずからの所有物でもない貸家の周辺環境の未来までみすえて行動を起こす理由がないからだ。自己所有者は、ときに近隣の空き地を駐車場や菜園用地として取得し整備することもあるが、賃貸の居住者にはそれも期待できない。

大掛かりな工事で作られたものを、素人が維持するのは「どう考えても無理がある」

 つまり、居住者が少なく空き地を多くかかえる限界分譲地は、区画所有者に連絡がとれるか否か以前に、そもそも合意をとりまとめることができるほどの地域コミュニティが形成されず、また居住者の転出入がくり返されている住戸も多いために、いまなお地域に合意をめざす要請そのものが存在しないのである。

 2018年に法務省が公表した「所有者不明私道への対応ガイドライン」は、その名のとおり、私道について一部の持ち分所有者の合意がとれずに補修が難航した場合の対策を示したものであり、合意形成への意思もない地域に対して問題解決の道を示すものではない。

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 もちろん、すべての分譲地が、朽ちていく共用部分を、指をくわえて見ているだけではない。僕が八街市で暮らしていた分譲地のように(後述するが、僕はその後、引っ越しをして別の分譲地に暮らしている)、地域の自治会とはべつに、分譲地で独自の管理組合をつくり、一定額の管理費をプールしたうえで、定期的に側溝掃除や草刈りなどをおこなって、環境維持に努めているところもある。

 だが、それにしても、もともと大がかりな造成工事で建築された道路や側溝などの土木工作物を、けっして多くない住民の手弁当で維持しつづけるのは、どう考えても無理がある。今後ますます、既存住宅の売却や相続が進めば、いずれはそうした自主管理の合意形成すらも困難になっていくことは想像に難くない。

 そんな管理不全の分譲地においてすら、地価が安いゆえに、いまもなお貸家や売家の供給は続いており、代謝は止まらない。そのような住宅地を地域社会に組み込んでいかなくてはならない状態が続いていくのである。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。