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 ドアの奥から勢いよく入ってきたのはレギュラー西川さんだった。僕はこれから何が起こるのか全くわからなかった。

 西川さんが生徒たちに説明をしてくださった。実はこの特別授業は噓で、4年前に「田舎に泊まろう!」でレギュラー松本さんを家に泊めたあのときの少年を呼び出すための口実だった、と。

 ん? 思考が停止したままだった。あのときの少年?

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 何故こんなことになったかというと、後日母から聞いた話だが、少し前に実家に「田舎に泊まろう!」のディレクターさんから電話が掛かって来た。「あれからご家族に何か変わりはありませんか?」という内容の電話だったようだが、そこで母がすかさず僕の宣伝になればと思い、ディレクターさんに伝えた。

「私と同じ看護師を目指していた息子が、レギュラー松本さんに出会ったことがきっかけで今、吉本の養成所に通っているんです」

 ディレクターさんは、面白いことになりそうだと思ったらしく、正月特番で放送するスペシャル回として、僕はレギュラーさんに4年ぶりにお会いすることになった。

 西川さんが言った。

「星野一成くん! 前に出てきてください!」

©️文藝春秋

 星野、一成? ……誰だ? ……えっ自分?

 自分を自分と認識するのに時間が掛かった。状況を理解した上でとてつもない羞恥心が襲ってきた。今まで全く目立っていなかった、NSCでも5軍のままだった僕が、急に同期の前に立たされてカメラの前でレギュラーさんと話をしている。さらにカメラはスタジオと中継が繋がっていて、司会の徳光和夫さんや、ゲストの芸能人の方がその様子を見ていた。

 それに加えて、中学のときにコンビ「三重とび」を組んでいた相方も、音声さんの変装をしてその場にいた。三重とびでのショートコントを急に振られて、訳も分からず披露し、めっちゃスベって徳光さんに、

「三重とびじゃなくて三重苦だね」

 と言われ、同期からは冷ややかな目で見られ、もう頭の処理が追い付かずパニックになった。

 その後もまだ僕を許してはくれず、

「これからにらたまの2人には徳光さんのいるスタジオでネタを披露してもらいます!」

 もうひと展開あるの? しかもにらたまで?

 にらたまの相方は、今日これが起こることを知っていた。ドッキリを仕掛けられる立場の僕と打ち合わせができない分、全て相方がディレクターさんとやり取りをしてくれていたようだ。相方よ、できればこっそり事前に教えておいてほしかったよぉ。

 そして、僕と相方はすぐにレギュラーさんと共にロケバスに乗せられ、テレビ東京に向かい、徳光さんや観覧のお客さんに向けてネタを披露することになった。