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「歌うま」と呼ばれるのがつらかった

 僕はカラオケでたまに周りから「少し上手いね」とちやほやされていたレベルの歌唱力であった。自分の好きな歌い慣れた曲を歌った動画がたまたまバズったことで、急に「歌うま芸人」として呼ばれ出し、いきなり絶対的に上手い歌を人前で歌わなければいけない状況になった。

 ファンとしてクリープハイプさんの曲だけを歌っていけるのであればまだよかったのだが、番組から求められるのは、今流行りの激ムズ曲やキーを出すだけで精一杯の女性曲などだった。それらの曲を「3日後の収録でお願いします」とか、「たっぷりトークをした後、すぐに歌ってほしい」だとか、僕にとってはとても厳しい条件で、さらにスケジュールも異常で1日3つ歌う仕事が入っている日もあったりした。

ほしのディスコ ©️文藝春秋

 歌の基本とも言われている発声から素人だった僕の喉は、すぐに限界を迎えた。全然声が出ない。音程が合わない。満足した歌が歌えていないものが放送され、全然上手くないと非難され、歌うのがどんどん怖くなっていった。

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 今すぐにでもプロレベルの歌声にしなければならないプレッシャーに毎日押し潰されそうだった。「歌うま」と呼ばれるのがつらかった。

 今までお笑いやバイトなどのストレスを発散するために趣味で行っていたカラオケが、いつしか歌の練習のために行く稽古場になっていた。喉を休めなきゃいけないのに止まっている時間が怖くて週に5回カラオケに行くこともあった。あんなに好きだった精密採点が僕を苦しめていった。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。