「Kコンテンツ」全盛の時代になぜ日本文化?
日本アニメブームが、分かりやすく数字に出ているのが映画界だ。
1月に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』が2月の韓国の最多観客動員を記録したのに続き、4月には『すずめの戸締まり』が3月8日の公開以来、35日連続で韓国ボックスオフィス(興行成績)のトップとなった。この記録は、昨年12月公開の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』と並んで、2010年以降に公開された作品でトップタイだ。4月下旬時点で、今年韓国で公開された映画のうち、累計観客数が400万人を超えたのは、この2作だけだ。
日韓関係をめぐっては、2019年7月に日本が韓国に対する「輸出管理」の厳格化を進めた結果、日本製品の不買運動である「ノージャパン運動」が盛り上がったのは記憶に新しい。取材で出会った韓国の若者たちは、運動との関係をどう捉えているのか。前出の女子大生が語る。
「ピザが好きだからといってイタリアが好きなわけではないでしょう。私は日本文化が好きですが、だからといって“イエス・ジャパン”ではありません」
弘大前の映画館で会った高校1年の男子生徒は次のように語る。
「日本のゲーム機を持っているので、ノージャパン運動には参加しませんでした。もちろん歴史問題は忘れてはいけませんが、近い国同士で仲良く過ごしたいです。このようにお互いの文化が好きだと仲も良くなるのではないでしょうか」
大衆文化評論家である大邱大学のキム・ホンシク教授は、次のように分析する。
「地理的にも、情緒的にも近い隣国である日本の文化コンテンツに、韓国の若者たちは常に関心をもっていましたし、文化的な選択肢の一つでした。ただ、それが表に出る機会が少なかっただけです。今回は『スラムダンク』や『すずめの戸締まり』のように、韓国内で確実なファンが存在する作品が相次いで韓国の映画館に登場し、日本アニメーションブームが爆発したのだと思います」
「日本作品に対する偏見をやめてください」
取材の中で、ノージャパン運動が影響しているのではないか、と思われるケースもあった。
「音楽がすごくて演出力も優れています。映像も夢幻的というか、とにかく幻想的です。そして何といっても、日本の声優陣の演技力が優れています」
そのように新海作品を絶賛した男性(22)のケースだ。映画館前のカフェで高校時代の友人たちと談笑していた彼は、新海監督ファンでも前作『天気の子』は、「評価が良くなかったから見にも行かなかった」というのだ。
『天気の子』は、ノージャパン運動に火が付き始めた2019年10月に公開された作品。観客動員約74万人に終わった。2017年に公開された同監督の『君の名は。』が韓国でも380万人以上を動員しているのに比べると予想外の不振といわれた。ノージャパン運動によって、韓国メディアが『天気の子』のパブリシティを避けたことで宣伝がまともにできなかった点、日本コンテンツに対する敵対的な社会の雰囲気も興行不振に一役買ったとされる。『天気の子』の韓国配給会社であるメディアキャッスルは、公開当時「日本作品に対する偏見をやめてください」と訴える文章を発表したほどだった。
その後2022年5月に文在寅政権から尹錫悦政権に変わり、ノージャパン運動も下火に。それで『THE FIRST SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』の快進撃の下地が出来たのだろう。
複雑な環境にありながら、日本のアニメを選ぶ若者たち。彼らが日本アニメに惹かれるのには、もう一つの理由があるという。
それは“外華内貧”と言われる韓国のコンテンツ産業、いわゆる「Kコンテンツ」の内実だ。
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ソウル在住ジャーナリスト・金敬哲氏による現地リポート「スラムダンク、すずめの戸締まり、チェンソーマン……なぜいま韓国で“日本ブーム”なのか?」の全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。