いじめが原因で、最愛の娘が新興宗教に入信&信者男性と結婚してしまった。母親が残した財産は、なぜ娘ではなく、最も渡したくない「愛人の子どもたち」に渡ることになってしまったのか? 経済ジャーナリストの荻原博子さんの新書『最強の相続』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
高齢出産で産んだ最愛の娘が新興宗教に入信した
「相続」では、本人が望む人に財産が渡るように「遺言書」を作成します。
けれど、その相続させたい人が「相続放棄」をしたら、自分が予期しなかった人に全財産が行く可能性があります。
これは、一人娘の「相続放棄」で、自分が仇だと思っていた人の子どもに全財産を相続されてしまった人の話です。
山田トミ(享年78・仮名、以下同)は、夫の死後、女手ひとつで愛娘の涼子(40歳)を育ててきました。
涼子は、トミが38歳の時に産んだ子ども。当時は30歳以上で初産だと母子手帳に“マル高”という、「高」の字を丸で囲んだハンコが押されていたので、“マル高出産”と呼ばれていました。
結婚して20年、やっと授かった子どもだけに可愛さもひとしおで、トミは涼子のためならなんでもしてあげようと思っていました。
涼子が生まれて7年後に、夫が他界しました。
夫は、小さな建築会社を経営し、トミはその会社で経理一切を取り仕切っていたので、亡き夫の後を継いで社長となり、会社を切り盛りしました。
職人が6人ほどいる小さな会社ですが、夫が遺してくれた家と事務所は時価1億円で、預金が5000万円でした。トミはこのお金をもとに事業を拡大しました。一心不乱に働いたのは、一人娘の涼子に、経済的なことで引け目を感じさせたくないと思ったからです。
そんなトミを激怒させたのが、涼子の新興宗教への入信と結婚宣言でした。
幼少期から寂しさを募らせていた娘の思い
母ひとり子ひとり。しかも母親は仕事に忙殺され、涼子は幼い頃から心に寂しさを抱えていました。けれど、「大変だけど、お前を立派に育てるためだからね」と言われると、その寂しさを母親にぶつけることはできませんでした。成長するに従って、心の中の寂寥感も大きくなりました。
家に帰ると、お手伝いさんが食事の用意はしておいてくれましたが、食べるのはいつも独り。学校の参観日にも運動会にも忙しい母は来られない。他の家とはちがうことが引け目になって、心を許せる友人も少なく、周囲からは「勉強はできるのだけれど、根暗な子」と思われて、いじめの対象にもなりました。
けれど、いじめられていることを母に話すと、学校に乗り込んで「うちの子をいじめるなんて、許せない!」と激怒され、状況がますます悪化しかねないと思い、黙っていました。