文春オンライン

「チャールズではなくウィリアムが国王に即位すべきだ」“ダイアナ事件”で王室支持率は急落…その時エリザベス女王が国民に語ったこと

『エリザベス女王』より #2

2023/05/06

genre : ニュース, 国際

note

 5月6日、英国チャールズ国王の戴冠式が執り行われる。昨年9月に96歳で死去したエリザベス女王は25歳で王位につき、70年間在位した。常に母国を考え、行動してきた女王陛下の波乱万丈とは。君塚直隆氏(関東学院大学国際文化学部教授)が手がけた評伝『エリザベス女王』(中公新書)の一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編から続く)

エリザベス女王 ©AFLO

◆ ◆ ◆

喪服姿の女王が国民に語ったこと

 フェローズ秘書官からの進言に基づき、女王はバッキンガム宮殿に半旗を掲げることに同意した。ただし自らの紋章旗ではなく、国旗(ユニオンジャック)である。さらに9月5日(ダイアナの葬儀の前日)には家族全員でロンドンに戻ってきた。通常であれば女王の車はそのまま宮殿のゲートを通るところであったが、この日、女王はゲートの前で車を降りた。そこで彼女が目にしたものは、うずたかく積まれた花束やカードの山だった。

ADVERTISEMENT

 エディンバラ公も、ウィリアムもハリーも、国民からの弔意に目を見張った。警備のためゲートに近づけない人々のために花を受け取り、王子たちはそれをそっと供えた。女王も一人の女の子が5本の赤いバラを持ってきたので「これを門の前に供えてあげましょうね」と受け取ろうとすると、少女はこう答えた。「いいえ陛下。これはあなたのために持ってきました」。周囲の群衆からは拍手が鳴り響いた。

 こののち女王はすぐさま宮殿に入り、午後6時からはBBCのテレビ・ニュースで演説が始まった。画面を直視する喪服の女王はこう国民に語り出した。

1997年9月4日、故ダイアナ元皇太子妃にささげられた花束や弔辞に見入るエリザベス女王 ©AFP=時事

 日曜日の恐るべき知らせ以来、私たちはイギリス全土、そして全世界がダイアナの死を悼んでいる様子を見てきました。[中略]この喪失感を表現するのは容易なことではありません。最初に受けた衝撃は、しばしば他の感情と入り交じってしまうものだからです。疑惑、無理解、怒り、そして残された者たちへの興味。私たちはこうした感情をこの数日間抱いてきました。ですから、女王として、さらには孫たちにとっての祖母として、私が心から伝えることができるのは、いまはこれだけなのです。

 この演説によって、国民やマスメディアの女王に対する怒りは収まった。翌9月6日、ダイアナの葬儀は「準国葬」ともいうべき待遇で予定通りに行われた。王族も97歳の皇太后をはじめすべて参列した。その模様はテレビ中継され、全世界で25億人以上の人々が画面に釘付けになったと言われている。こうして「民衆の皇太子妃」の葬儀は無事に終わった。

関連記事