さらにそのとき、出版の基本も常識も知らなかった私は、書籍の中に引用という形で掲載した「ちびまる子ちゃん」のイラストを無断で書店販促用のPOPに使ってしまいました。
後日、さくらプロダクションから抗議の電話がかかってきました。無断使用をしたPOPはすぐに回収し、謝罪をしましたが、怒りは収まりません。おそらく、自費出版という話だったため協力をしたのに、書店の展開を見ると完全に商業出版ではないか。騙されたと思ったのでしょう。
我々はあまりにも無知すぎた
ただ、我々は本当に騙すつもりはありませんでした。あまりにも無知すぎたのです。私はそれが初めてきちんと編集を担当した本でした。編集も印刷も著作権についても知識がなく、それについて教えられる人も周りにいなかった。あまりの売れ行きにただただ驚くことしかできず、社長は増刷分の印刷費を工面するために資金調達に奔走しているような状況でした。
それから私と社長は謝罪をするため、何度もさくらプロダクションに足を運びました。本当に自費出版だったこと、当初は数千部の予定だったが書店から予想を超えた注文が入ったこと、売れ行きについてはこちらではコントロールできないこと、結果的に騙すような形になってしまい申し訳なく思っていることなどを、繰り返し説明しました。
しかしプロダクション側は、として謝罪を受け入れてはくれませんでした。POPを回収し、印税を支払う旨も伝えましたが、「そういうことではない」と許してくれません。「では、どうすればいいでしょうか?」と聞いても、「そちらで考えてください」の一点張りです。結局、妥協点を見出すことができず、話は平行線のまま終わってしまいました。
もしも今、同じような出来事が起こったのなら、私は「自費出版には変わりありませんが、注文が殺到したのでご相談が……」と、書籍が売れる前に先方に相談に行くと思います。そのうえでギャランティを増やすとか、印税契約に切り替えるとか、色々な対応ができたはずです。
ただ、当時は本当に何も知らず、相手の怒りを鎮めたいとばかり思っていました。そのせいで結局、プロダクション側とは和解できずに、苦い思い出として残ることになりました。この「特大級の怒られ」から、私の編集者人生はスタートしたのです。