取材中のヤクザから、いきなり恫喝された若かりし頃の草下シンヤ氏。相手が文句をつけてきた「草下氏の一言」とはいったい?
アンダーグラウンド事情に精通し、これまで多くのヤクザを取材してきた編集者の草下シンヤ氏の新刊『怒られの作法――日本一トラブルに巻き込まれる編集者の人間関係術』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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脅しの9割はハッタリ
まずは身体的リスクです。これは相手から殴られたり、刺されたりといった暴力を振るわれる危険性を指します。
裏社会では、揉め事が起きたときに暴力をちらつかせて優位に立とうとすることが非常に多いです。取り締まりが厳しくなった関係で最近はあまり聞かなくなりましたが、「殺すぞ」「さらうぞ」と直接的な言葉で恫喝してきたり、「あなたにはひどい目にあってほしくない」と含みを持たせた言葉で脅してきたりすることもあります。また、「〇〇さんがお前のこと許さないって言ってたよ」と、第三者が自分を狙っているようなことを吹き込んで不安や疑念を抱かせるといった手もよく使われます。
ただ、裏社会を長年取材してきた自分の経験から言うと、実際に危害を加えられるケースは多くはありません。
自分と同じように、相手も感情と利害を天秤にかけて判断しています。本当の目的は金銭や有利な条件を引き出すことで、怒りはそれを叶える手段として使っていることが多い。本当に暴力を振るえば、自分が逮捕されて逆に不利益を被ることになってしまいます。それを理解しているため、滅多なことでは実力行使に出ないのです。
そのため身体的リスクの本質は、暴力を振るわれることではなく、「危害が加えられる」という不安から、自分で行動の選択肢を狭めてしまうことにあると言えます。まずは、相手が怒りによって何を狙っているのか、冷静に腹の底を探る目を持つことが大切です。