「ヤクザ者ってバカにしてんのか?」
では、暴力を匂わされたら具体的にどう対応すればいいのでしょうか。
自分の経験上、暴力に訴えるタイプには、延々と怒鳴り散らして相手を萎縮させようとする「恫喝タイプ」と、何も言わずにこちらを睨んで圧力をかけてくる「無言タイプ」の2種類がいます。
恫喝タイプは、とにかくあることないことまくしたてて、相手を何も言えない状態にさせるのが手口です。反論する機会や意思を剥奪して、最後に「こういうことだよな?」と有無を言わさず認めさせようとします。
2008年に出版した『裏のハローワーク「交渉・実践編」』の「はじめに」にも書いたのですが、あるヤクザ関係者のインタビューを終えて雑談していたときに、いきなり恫喝されたことがありました。話の中で、私が「ヤクザ者」と口にした途端、相手の態度が豹変したのです。
「ヤクザ者ってのは、なんだ。俺らの稼業をバカにしてんのか?」
「あのな、俺が自分のことをヤクザって言うのは構わんよ。だがな、外の人間にそんなふうに呼ばれる筋合いはない。任侠なんだよ、俺たちは。あんたがそれをヤクザなんて言い出したら、ふざけるんじゃないって話だよ」
私はわけもわからず謝罪しました。
「なんだと、このヤロー。謝るってことは非を認めたってことだな。お前もわかってんだろ。ヤクザの語源を。知ってて口にしたならいい度胸してるよ。取材させてくださいと申し込んでおいて、その相手のことを役立たずと思ってたってことだからな」
花札の「おいちょかぶ」では、「8・9・3」の目が出ると最も弱いブタの目になることから、転じて役に立たない者のことを「ヤクザ」と呼ぶようになったという説があります。
私は「配慮に欠けた発言で申し訳ありませんでした」ともう一度謝りました。しかしなおもヤクザの勢いは止まりません。
「配慮がないだ、ふざけるんじゃないよ。お前は仮にも物書いて飯食ってんだろう。任侠や極道っていう言葉も知っているはずだ。その中からわざわざヤクザを選んだってことは、ただの偶然には思えないな。喧嘩を売っているようにしか見えないんだよ。どうなんだコラ!」
あまりの迫力に、私は口をつぐむことしかできませんでした。