「我々は本当に騙すつもりはありませんでした。あまりにも無知すぎたのです。」
かつて「ちびまる子ちゃん」のはまじのモデルとなった人物の自伝を出版した、編集者の草下シンヤ氏。当初予定していた発行部数を大きく上回り、初版は2万5000部、最終的には7万部近くも売れる結果に。ところが、ささいなことがきっかけで権利元のさくらプロダクションを怒らせてしまう……。
若かりし頃の草下シンヤ氏の失敗を、新刊『怒られの作法――日本一トラブルに巻き込まれる編集者の人間関係術』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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国民的人気アニメの原作者に怒られる
現在は適切な謝り方がある程度見えますが、私も編集者として駆け出しだった頃は、トラブルが起きたときにどう謝ればいいのかわかりませんでした。それで和解できなかった苦い経験もあります。
私が彩図社に入ったのは23年前、地元から上京してきたばかりの21歳のときでした。そのとき彩図社はまだ商業出版をしていませんでした。しかも社員は数名しかおらず、編集のノウハウを持っている人もいない。社長も理系畑出身で、「本が好きだから出版社をつくっちゃおう」と立ち上げたのはいいけれど、どうにもならずに自費出版で糊口をしのいでいるような状況でした。
そんな中に私が入社して間もない頃、ある人から「自伝を出したい」と手書きの原稿が送られてきました。名前を見て驚きました。その人は、「ちびまる子ちゃん」に登場する、はまじというキャラクターのモデルとなった人物だったからです。
しかも原稿を読んだら面白かった。そこで私が編集を担当して、自費出版をすることになりました。自費出版の場合、初版は通常500部、多くて1000部くらいです。ただ、著者は素人ですがネームバリューがあるし、内容も面白いので3000部くらいは刷れる見込みがありました。
それでどうせなら、本のカバーイラストと挿絵を、さくらももこさんに描いてもらえないかと考え、お願いにうかがいました。すると、さくらさんは、「自費出版だし、いいですよ」と快諾してくださり、破格のギャランティでイラストを描いてくれました。
事態が急転したのは、その後です。刊行の準備が整い、書店に注文書を送ったところ、全国の書店から予約注文が殺到。当初予定していた発行部数を大きく上回り、初版は2万5000部、最終的には7万部近くも爆売れしてしまいました。