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遭難から生還できる人の「共通点」

 今回のインタビューで、とりわけ私が羽根田に聞きたかったのは、「遭難から生還できる人とできない人では何が違うのか?」ということだった。これまでに100人近い遭難経験者に向き合ってきた羽根田だからこそ知る“生還者の共通点”があるのではないか――。

 だが羽根田の答えはちょっと意表を衝かれるものだった。

「はっきり言ってしまうと『運次第』だという気がしています」

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 もちろん、生還者たちの中に「生命の危機に瀕してもパニックにならない精神力」「絶対生きて家に帰るんだという信念」「運命の分かれ道で正しい道を選べる判断力」といった属人的な共通点がないわけではない。だが遭難者がそれらを十分に備えていたと思われるケースでも、運悪く助からなかったケースもあれば、逆に常識では考えられないような行動をとったのになぜか生還できたケースもある。要は安易に人間の都合だけで「生還の条件」を導き出せるほど、山は甘くないということだ。

生還の可能性を低下させる「条件」

 逆に「生還の可能性を確実に低下させる条件」ならある、と羽根田は指摘する。

「それは、遭難したときにすぐに探してもらえないこと、ですね」

 つまり事前に登山届を出さず、家族などに登山行程も伝えていないケースである。いくら遭難者が奮闘しても、正しい場所を探してもらえなければ、その努力は報われない可能性が高くなる。

 実は冒頭で羽根田が挙げたAさんの遭難事故がまさにこのケースに当たる。

 日帰りの山行のつもりだったAさんは登山届を出しておらず、家族にも「秩父の山」という以上の情報は伝えていなかったのである。

©iStock.com

「どこの山に登ったかわからない場合、警察が遭難者の自宅まで行って、足取りの手掛かりとなるようなものが何か残ってないか、たとえばパソコンの検索履歴などを調べます。また、家族や山仲間の情報から、登っていそうな山にあたりを付けて、鉄道駅やバスの防犯カメラの映像をチェックしたり、目ぼしい登山口の駐車場に遭難者の車が残されていないかをしらみつぶしに探したりと、実際の捜索に入るまでに時間も労力も相当ロスしてしまいます。すべては登山届さえ一枚出してくれていれば……という話なんです」

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 警察はAさん宅から秩父方面へ行くルートとして、秩父鉄道を利用したと仮定し、日帰りの予定だったことから、捜索対象を破風山や蓑山や宝登山などに絞り込んだ。だがいくら探しても見つからない。さらに範囲を広げたが、足取りはまったく掴めぬまま、やがて捜索は打ち切られてしまった。