社会の闇と呼ばれる“アンダーグラウンド”を25年以上も取材し続けてきた、ルポライターの村田らむ氏。そんな彼が取材中に一番恐怖を感じるという「理解不能な人間の狂気に出会った瞬間」を描き出したコミックエッセイ『人怖 狂気が潜む人間の深淵』(竹書房)が、4月27日に刊行された。

 原作は、2021年11月に発売した村田氏の著書『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)。コミック版では、書籍の中でも特に印象的だったエピソードが9話分収録されている。 

殺し屋への取材で殺されかけた経験も ©村田らむ・西アズナブル/竹書房

自分の近くにいるかもしれない人々の狂気

 本作で描かれているのは、「人間の中に潜む深い闇」。登場人物は、殺人罪で捕まっていた殺し屋や20代の会社員女性、大手企業に勤める40代男性など様々だ。そしてその人たちは、それぞれ背筋も凍るような驚きの本性を持っている。

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 例えば、大手企業に勤めるスマートな40代男性が、実は樹海で死体を探す趣味を持っていたり……。

「今回の作品では、日常の延長線上に居そうな人々の狂気が描かれています。読み進めるうちに『もしかしたら自分の近くにいるかもしれない、自分も巻き込まれるかもしれない』という恐怖を感じると思います。そしてどのエピソードも、村田さんが実際に経験したり、取材で集めた実話です。

 なかでも、生き物を殺す残酷な趣味を持った20代女性のエピソードが衝撃的。人間の怖さを突き付けられるというか……。僕はこの本を作りながら、『他人を本当に理解するのは100パーセント無理なんだな』と実感しました。

 ほかにも、人肉を食べた経験のある殺し屋にインタビューしたエピソードなど、長年アンダーグラウンドを取材し続けている村田さんならではの体験談を収録しています」(担当編集者の吉野耕二さん) 

スマートな会社員男性が驚きの趣味を持っていた ©村田らむ・西アズナブル/竹書房

あえて全エピソードを“オチ”なしにした理由

 そして本作のもうひとつの特徴は、どのエピソードにも“オチ”がないこと。何も解決しないまま物語が進んでいくため、後味が悪い。しかしその後味の悪さが、「理解不能な人間の狂気」を描き出すのに、ひと役買っている。

「どのエピソードもあえて後味を悪くして、消化不良感を残しているんです。それが一番こだわった部分かもしれません。

 そうすることで、人間の不気味さや怖さを引き立てることができる。それにオチがないからこそ、読者の想像力を搔き立てられるとも思っています」(同前)

 その狙い通り、auブックパスで先行配信している竹書房のwebコミックエッセイレーベル「せらびぃ」での連載時には、「こんな後味が悪い作品は読んだことがない」との感想が多数寄せられたという。同レーベル内でもトップクラスの反響を記録したそうだ。 

人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)

「怖い話や不気味な話が好きな人には、娯楽作品として楽しんでいただけるはずです。そしてそうじゃない人々にとっては、『自分や身近な人の中にも、こんな狂気が潜んでいるかもしれない』と、自分自身の行いや他人との関係を見つめ直すきっかけになれば嬉しいですね」(同前)