昨年公開された主演映画『千夜、一夜』では、行方不明となった夫を30年以上も待ち続ける女性を演じた。前出の久世光彦は、彼女の武器として、一つの役でいくつもの顔を見せることを挙げている。この作品でも、表面上は辛抱強く待ち続けながらも、心のうちには狂気めいたものも併せ持ったところを見事に演じ、圧巻であった。
全編を通してシリアスな役どころではあったが、母親の葬儀のシーンで、母が死んだときに抱いていた亡父の義足を棺桶に無理やり入れようとするなど、おかしみを感じさせるところもあった。役の幅を広げようという姿勢は、『おしん』のときから変わらない。
是枝監督の新作映画にも出演
テレビでは、日中共同制作ドラマ『蒼穹の昴』(2010年)で中国の清朝末期の最高権力者・西太后を演じたほか、『おしん』のあとも『まれ』(2015年)や『なつぞら』(2019年)など朝ドラにもたびたび出演している。さらに『Mother』(2010年)から昨年放送の『初恋の悪魔』まで、脚本家の坂元裕二と日本テレビの次屋尚プロデューサーのコンビによるドラマの常連でもある。
坂元の脚本作品では、是枝裕和監督の新作映画『怪物』にも出演している。同作は来月開催のカンヌ国際映画祭に出品されたのち、6月に公開予定である。田中が演じるのは小学校の校長で、予告編を見たかぎり何かを企むヒール役のようだが、そこは彼女のこと、きっとそれだけにとどまらないものを見せてくれるに違いない。