NHKの連続テレビ小説『おしん』の放送がスタートしたのは、いまからちょうど40年前の1983年4月のことである。1年にわたり放送された『おしん』は平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%(ビデオリサーチ調べ)という、日本のテレビドラマ史上いまだに破られない記録を残した。
その物語は、乙羽信子演じる80代となった主人公・おしんが自らの人生を顧みる旅に出るところで幕を開け、前半では、彼女が幼くして家族のもとを離れ、奉公に出た先でつらい目にあいながらも懸命に生きるさまが人々の涙を誘った。その後少女時代のパートだけが繰り返し再放送されたこともあり、おしんというと、幼い頃の彼女を演じた子役の小林綾子のイメージが強い。
だが、ドラマの大半で主演を務めたのは、おしんの16歳から45歳までを演じた田中裕子である。最高視聴率を記録したのも、田中が演じていた回だった(1983年11月12日放送の第186回)。きょう4月29日は、その田中の68歳の誕生日である。
収録中に倒れ、そのまま入院
ドラマのなかで、おしんは何度となく襲う試練に耐え忍びながらも乗り越えていく。ただ、その性格は田中とはかなり違ったようだ。そのため、撮影中、脚本を渡されるとまず、《どこかふざけられるところはないか、どこかバカをできるところがないかな、私が楽しめるところがないか》と、おしんの性格の幅を広げられそうなところを見つけることで、気力を奮い立たせていたという(『MORE』1983年8月号)。
とはいえ橋田壽賀子による『おしん』の脚本は、セリフが長いうえに、“てにをは”を一つ間違えても意味が変わってしまうので、覚えるだけでも大変であった。それだけに演技も自由がなかなか利かず、しかも視聴率がどんどん上がっていくなかで小林綾子からバトンを引き受けたとあって、さしもの田中もそうとうのプレッシャーであったようだ。ついには収録中に倒れ、そのまま入院、撮影は1ヵ月休止となる。
その後復帰して、すべての出演シーンを撮り終えたあとの記者会見での、《私自身がおしんだったとは思いません。おしんとは長くつき合ったけど、好きなところも嫌いなところもありました。どこがどうとは説明できませんけど……。たかがドラマでしかないけど、でもドラマなんですね》という発言からも(『週刊明星』1984年1月1日号)、苦労がしのばれる。