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宝塚「性加害」報道の演出家が歌劇団を提訴した

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 異変があったのは11月下旬。A氏が原田氏のハラスメントを歌劇団に訴えたのだ。

〈総務部長は、A側が面談で提出した2枚のメモ書きを私に見せてきた。(中略)そこには車中で私がAと交わしたという言葉の抜き書きが記されていた。2枚目には「原田の恐怖支配により、宝塚に入団してから8キロ痩せた」、「深夜に原田により過酷なスケジュールで、呼び出しが強制的に行われている」、「〇〇先生(別の演出助手)から原田がバイセクシャルだと聞き、頭痛やめまいがするようになった」などの文言が連なっていた。私の発言は背景事情のある「会話」の一部である。とりわけ、別の演出助手による勝手な性的指向の憶測と流布、それをハラスメントの根拠の一つとすることは人権侵害ではないか。(中略)そもそも突如としてAの人格が変わったようにしか思えなかった。最後に会った日も変わった様子はなく「入団から8キロ痩せた」とは信じ難い。来年の私の担当公演には必ずスタッフに入れてくれと幾度も懇願してきたあの言葉はいったい何だったのか。どうにも合点がいかないことが多かった〉 

 12月2日、木場健之宝塚歌劇団理事長から、後日開かれる懲戒委員会の場でハラスメントに関する聴取があった後、正式な処分が決まると告げられる。この間、原田氏はA氏との面会を希望していた。手記では〈第三者の立ち会いのもと、きちんと話し、たとえ冗談とはいえそれを不快に思っていたのであれば、真摯に謝り、金輪際そう云うことは言わないと約束したかった〉と、当時の心境を綴る。総務部長を通じてA氏の母からの要望に従い反省文を提出した。

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内定直後のLINE ©文藝春秋

懲戒委員会が行われることなく、阪急グループに異動が決定

  ところが――。3日後の12月5日の歌劇団幹部との面談でのことだった。

〈「この2、3日でA側の態度が硬化している」私が席に着くや否や、木場理事長がそう切り出した。「Aの母親が、あなたを宝塚歌劇団から出さなければ、10日の土曜日に文春に情報を渡すと言ってきた。土曜に情報を渡せば、月曜日には記事にしてもらえるらしい。もう記者ともコンタクトを取っていると言っている。Aの脅しを免れるために、9日付であなたは阪急電鉄の創遊事業本部に異動してもらうことに決定した(中略)異動はもう決まったことだから。業務命令!」(中略)振り返ると、劇団幹部とのやり取りは弁護士などの第三者が立ち会うことはなく、常に密室で行われた〉