がんは高齢者に多い病気だ。80歳を超えてがんが見つかる人も増えている。だが、医師から手術をすすめられて、どうすべきか悩む人も多いのではないだろうか。高齢者の手術をどう考えるべきか。胃がんの腹腔鏡手術の名手として知られる福永哲医師に話を聞いた。

福永 哲(順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器・低侵襲外科教授)
1988年、琉球大学医学部卒。順天堂大学浦安病院、がん研有明病院等を経て、2015年から現職。

――どの外科医の方々に聞いても、手術できる患者さんの年齢が高くなっていると聞きました。

 はい、がん患者さんの平均年齢が上がっていると同時に、手術の技術が向上したこともあって、手術できる方の年齢は確実に高くなっています。

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 わたしが医師になった25年ほど前、がんの手術を受ける人の平均年齢は64、5歳だったと思います。しかし現在では、平均年齢は70歳を超えているでしょう。80歳代の患者さんを手術することも普通になりました。

 わたしが手術した最高齢の患者さんは90歳の女性で、胃の部分切除を受けられました。次は89歳の男性で、胃の全摘をされました。お二人ともお元気で5年以上生きられています。

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――これほど高齢の人に、「がんの手術までするなんて」と疑問に思う人がいるかもしれませんね。

 そう思う人がいるかもしれませんが、手術しなかった場合のことも想像していただきたいのです。

 たとえば、余命が3年だったとしても、その間に何もなく、コロっと亡くなるわけではありません。がんが大きくなるにつれて、出血して痛みが出る、腸閉塞を起こして苦しむ、栄養が取れずにむくんでくる、お腹に水がたまるといった症状が出てきます。手術には、そうした症状が出るのを予防する意味もあるのです。

 もちろん手術をすれば、症状を抑えられるだけでなく、5年、10年と生きられる可能性も出てきます。たとえば、女性の平均寿命は90歳近くになりました。ですから、80歳を超えた方が手術をして、平均余命まで長生きすることができれば、大いに意味があるのではないでしょうか。