手術と放射線、楽なのは?
――高齢の患者さんの中には、「手術したくないから、薬や放射線で治したい」という人もいると思います。
抗がん剤の負担は手術より軽いだろうと思う方もいるかもしれませんが、それは誤解です。高齢者は抗がん剤の副作用が強く出て、決められた量を最後まで完遂できない人が多いのです。
また、体にやさしいとされる放射線治療にもデメリットがあります。副作用は軽く済んだとしても再発のリスクがあるうえ、再発したら手術が非常に難しくなり、合併症のリスクが高くなります。その点も覚悟したうえで、放射線治療は受ける必要があるのです。
一方、手術の場合、たしかに術後の合併症のリスクはありますが、これさえ乗り切れば、治療は1回で済んでしまいます。再発しても、次の手を打つことができる。高齢者には抗がん剤や放射線が楽なのではないかと思われがちですが、それは安易な考えです。
――とはいえ、高齢になると体力が衰えますし、持病を持つ人も増えます。どんな点に注意する必要があるでしょうか。
まず、高齢者を手術する場合には、サジ加減が大切です。取り残しがないようにするために、若い人と同じように広い範囲のリンパ節や臓器を徹底的に取ると、高齢者は体力がないために、合併症が出ることがあります。ですから、外科医としての経験に基づいて、「この人はこれぐらいにしておいたほうがいいだろう」と微妙な判断をする必要もあります。
ただし、高齢になるほど「暦年齢(実際の年齢)」は当てになりません。同じ80歳でも歩くのが遅く、見た目にも元気のない人は、手術を乗り越えられない可能性が高くなります。一方、80歳なのにお元気で、しっかりと歩いたり立ち上がったりすることのできる人は、手術に耐える体力があり、ほとんどが安全に手術できます。
また、安全に手術を受けるためには、年齢に関わらず、肺の状態をよく保ち、糖尿病を予防することが大切です。たとえば食道がんや胃がんでは、術後に肺の合併症を起こすと命取りになることがあります。ヘビースモーカーの人やそのために慢性閉塞性肺疾患(COPD)になっている人は、若くても手術のリスクが高いのです。
それから糖尿病でインスリンを打っている人は、組織がもろくなって出血もしやすいので、手術がむずかしくなります。歳をとったときに「もう手術はできない」と言われて後悔しないためにも、タバコをやめて、糖尿病のような生活習慣病を予防すべきでしょう。