腹腔鏡手術は高齢者向き
――80、90を超える高齢者の場合はとくに、外科医や病院を選ぶことも重要ではないでしょうか。
そうですね。できるだけ体に負担をかけずに手術するためには、スピーディーかつ正確に、手術ができる技術がなければいけません。そのためには、たんに手術数が多いだけでなく、高齢者などリスクの高い患者さんの手術を、たくさん経験していることも重要です。
手術にはどんな不測の事態があるかわかりません。たくさん手術をして、経験を積み重ねていれば、思わぬ合併症が起こっても冷静に対処できるものですが、経験がなければ後手後手に回ってしまうことがあります。それだけに、高齢の方はとくに、手術経験の豊富な医師を選んで手術を受けることが大切でしょう。
また、高齢者は糖尿病をはじめ、さまざまな持病を持っていることが多いので、術前に持病を治療して、体調をベストの状態にしておくことも大切です。それには外科医だけではダメで、他科の専門医の協力が不可欠です。ですから持病のある方や80歳を超えるような方は、複数の診療科が連携して治療にあたれる、大学病院をはじめとする総合力のある病院を選ぶべきでしょう。
――高齢者が胃がんや大腸がんを手術する際には、腹腔鏡のメリットも大きいと聞きました。
はい。開腹手術で大きく切開すると、傷が痛んで咳が出しにくくなります。すると、高齢者の場合は痰を排出できずに肺炎を起こしやすくなります。また、開腹手術では、傷が癒着して腸閉塞を起しやすくなります。その点、腹腔鏡手術なら、傷が小さいので痛みにくいですし、癒着も開腹手術ほど起こりません。
ですから、腹腔鏡手術は高齢者の方に非常に向いていると言えるでしょう。ただし、腹腔鏡手術は施設によって技術格差があります。とくに進行がんの場合は症例数が多くて、慣れた施設で受けたほうがいいでしょう。ですから、しっかり病院を選んで、手術することをおすすめします。
――「高齢だから手術はできない」と言われる患者さんもいると思います。その場合はどうすればいいでしょう。
前述したとおり、高齢者や持病のある方など、リスクの高い患者さんの手術に慣れていない施設では、そう言われてしまう可能性があります。ですから、「手術を受けたい」と思った方は、そうした患者さんでも積極的に手術をしている専門病院を探して、セカンドオピニオンを聞いてみてください。
実は、ご本人は手術を受けたいと思っているのに、ご家族やかかりつけ医から、「歳なんだから、手術はやめたほうがいい」「高齢だから手術は無理かもしれない」と言われる方が多いんです。そんな方に、「手術できますよ」と言うと、「よかった」と泣きだす方もおられます。
若い時には想像しにくいかもしれませんが、歳をとっても生きる意欲は、そう簡単に衰えるものではないのだと思います。もちろん、「絶対にイヤだ」という人を無理に手術することはできませんが、反対に「手術を受けたい」という人の自由を奪う権利もありません。
周囲の人が勝手に治療を決めてしまうのではなく、あくまでご本人の意思を尊重して決めるべきだと私は思います。