開幕から16試合無失点と、マリーンズの中盤を支え、勝利に導いている男がいる。今年3月、ファイターズからトレードで移籍をしてきた西村天裕投手だ。ルーキーイヤーにファイターズで投手コーチを務めていたのが現在、マリーンズの指揮を執る吉井理人監督。当時からそのストレートに大きな可能性を見出していた。

トレードをキッカケに原点回帰

 西村には忘れられない思い出がある。1年目、初めて二軍落ちした時、吉井監督(当時投手コーチ)に「ストレートがいいのだから、もっとストレートを磨きなさい」とアドバイスをもらった。

「コントロールが悪かったから、どうしてもコントロールを意識したり、変化球が多くなったりしていた。それでまた見送られてボールになったり。どうしてもストライクが欲しいと思って自分のピッチングができなかった」と西村。自分のストレートを信じきれない日々だった。

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 そんな中、プロ6年目の今年、マリーンズへのトレードが決まった。入団に際して吉井監督は「いいストレートを投げ切れる投手」と評した。西村とは1年間、共に戦った後、マリーンズに移籍しコーチを務め、監督となっても西村のストレートに強い魅力を感じ続けていた。そして巡り巡って再び、縁で結ばれた。同じチームで戦うこととなった。

 西村は移籍をキッカケに原点に戻った。指揮官である吉井監督からルーキーの時にかけられた言葉をもう一度、思い返し、ピッチングスタイルを考えた。今季初登板は福岡での開幕3戦目の8回。先頭こそ四球で出塁を許すも動じなかった。バントで送られて一死二塁で迎えた上林、甲斐をストレート中心で抑え、後続を断った。上々のスタートを切った。

西村天裕 ©千葉ロッテマリーンズ

「調子の波がなくなった」今年から取り入れた呼吸法

 自信になったゲームは本拠地ZOZOマリンスタジアムにホークスを迎えての試合だ。4月22日のデーゲーム。西村は先発の西野からバトンを受けて2番手として登板した。一死から連続安打を許すピンチを作った。それでも増田を見逃し三振に仕留めると、近藤をセンターフライ。堂々たるピッチングでピンチをしのいだ。

「今までなら、ああ、どうしようとオロオロしていた場面。打たれても冷静に判断できた」と西村は話す。

 吉井監督も期待に応える右腕を評価する。「最初はちょっとビハインドの場面ぐらいから投げてもらった。そこから少しずつ難しい場面へと。ビハインドの試合で、2番手で投げる投手は大事。踏ん張れなければゲームが終わってしまう。逆に、そういう場面でいいピッチングをすると自信になる。意味のある場面で投げて結果を出してくれている」と目を細める。そして「ストレートが基本の投手。スピード以上に伸びるストレート。ストレートがいいからフォークやその他の変化球も生きる」と期待をかける。

 今年から取り入れた呼吸法が功を奏している。「去年の冬からメンタルと呼吸法を勉強するようになりました。常に一定の呼吸を意識しながら投げています。すると冷静に投げることができるようになった」と西村。今までは少し打たれると、弱気な自分が顔を出した。調子が悪いと自信を失った。打席に実績十分の強打者が立つと投げる前から気持ちで負けていた。しかし、今の西村は呼吸を意識することで常に一定のメンタルを保てるようになった。だからこそ、移籍後初登板も、自信をつけた登板でも、走者を許しながらも深呼吸をして冷静に自分の持ち味であるストレートを軸に打者を抑えていった。

「ブルペンで投球練習を始めたぐらいから、一定のテンポで呼吸をするのを常に意識しています。マウンドでも同じ。おかげで今までと違う感じで投げることが出来ている。これをやることで調子の波がなくなった」