嫌な予感がした。5年前、「パリの五月革命」50周年のメーデーの時もこんな形だった。いつもはデモ隊に紛れて、デモの最後の方で暴れるのだが、あの時は、先頭をきって、デモが始まって間もなく機動隊と衝突した。セーヌ川を渡るコースで橋の上が危なくなって、デモそのものが解散してしまった。
本来のデモ隊のところまでもどってデモの出発を待った。先頭ではすでに、発煙筒がたかれたり、歩道のゴミが燃やされたりしている。
機動隊との衝突、火炎瓶、そこに激しい夕立…漂う催涙弾の香り
予定より遅れて、14時45分頃、デモが始まった。10分ほどたっただろうか、デモ隊が止まった。前方遠くでは白い煙が上がっている。催涙弾のような音もする。心配したとおり、ブラックブロックと機動隊の衝突が始まったようだ。
雨粒が落ちてきた。夕立のような激しい雨、雷もなる。
歩道にいた見物人たちはカフェのテントの下や建物に身をはりつけて雨宿り。デモ隊は止まった。沈黙。雨に濡れる不快感を吹き飛ばすためにも大声でスローガンを叫びたいところだが、それでは、暴徒を応援するようになってしまう。
スマホの実況動画では、かなり激しい衝突があり、火炎瓶がなげられ、ゴミに火がつけられ、店のガラスが割られている。
雨はあがって日も差してきて、隊列も動き出した。何とかデモは続けられそうだ。雨が降ったおかげか、催涙弾はほんのり香るぐらいしか残っていなかった。
壊されたバスの停留所、キオスク、看板、ショーウィンドウ。しかし…
暴徒は一応反資本主義で、銀行や保険会社それにマクドナルドなどが狙われるので、厚いベニヤ板などで防御している。デモの時怪しい者は荷物チェックをされるのだが、前から板を剥がすためのバールや火炎瓶などを沿道に隠しておく。もしかするとデモコースが報道と違ったのは、ブラックブロックが事前準備しても無駄になるように警察がフェイントをかけたのかもしれない。
バスの停留所、キオスク、パリ市の電動看板、あらゆるものが壊されている。カフェや普通の店のショーウィンドウも割られている。消しきれずに残った火もある。ほんの数十分前の出来事なのだが、もうすっかり台風一過というか、戦跡というか、そんな感じになっている。破壊の跡ではスマホを取り出して撮影する人も多い。なかには前でポーズをとって記念撮影する人も。
いつもはシュプレヒコールやロック音楽があるのだが、今日はただ黙々と歩く。