「きつい仕事をしている人にとって2年の延長はつらいよ。若い人に道を譲らなきゃいけない」
レピュブリック(共和国)広場はパリの東部の下町で、東京でいえば上野、大阪でいえば天王寺あたりにあたる。大きな四角い広場で真ん中に共和国の象徴マリアンヌの像があり、さまざまな集会の場として使われている。「シャルリー・エブド」襲撃事件の後のデモでは広場の近隣の道までびっしりと人が溢れた。広場の四辺の道路に、大きな装飾やアドバルーンをつけた各組合連合の車が並んで集合の目印になっている。
CFDT(仏民主労働同盟)の車があった。牛の人形の車は農業部門だ。CFDTは穏健派の労働組合で、近年古くからの急進派のCGT(仏労働総同盟)を追い越して最大勢力になった。今回の年金改革はじつは2019年に出されて新型コロナで中断したのだが、あの時にはさまざまな争点があって、CFDTは政府と話し合う姿勢を見せていた。
しかし、再出発にあたってマクロン大統領の肝いりで法案はまったく違ったモノになり、もともとCFDTが反対していた62歳から64歳への満額年金受給資格年齢延長に専ら焦点があてられたため、他の穏健派組合とともに反対陣営に回った。かくして全組合連合の共闘になったわけである。
CFDTと染め抜かれたオレンジ色のベストを着たジュリアンさんに話を聞くとつい最近67歳で定年退職したばかりだという。年金改革に反対なのは
「私は公務員でデスクワークだから70歳まで仕事してもいいんだが、工場などきつい仕事をしている人にとっては2年の延長はつらいよ。それに若い人に道を譲らなきゃいけない」
ということだそうだ。ただ単純にフランス人は仕事したくない、という話ではない。
とくに全体の集会があるわけではなく、それぞれに景気づけの音楽を大音量で流している。メーデーには各国の左翼反体制派が参加するのも特徴で、この日も、南米、中東、アフリカのさまざまな団体が民族音楽やその国の労働歌などを流して集会をしていた。
「嫌な予感がした」デモ隊の前に異様な横断幕をもった一団が…
報道では、デモコースはさっき歩いてきた大通りを通ってバスチーユ広場経由ナシオン広場までという予定になっていたが、そこではなく、直接ナシオン広場と結ぶ大通りにデモ隊が陣取っている。
先頭に行ってみると、組合のデモ隊の前に、「火」「今」と大きく書いた荒々しい異様な横断幕をもった一団がいる。「黄色いベスト」運動の残党も混じっているが大半は黒ずくめの壊し屋ブラックブロックだ。
ヨーロッパ各国から集まる若者で、G7など大きな催しで街を打ちこわして警官隊とぶつかる。年金改革なんかどうでもいい、警官と戦い、沿道を破壊することだけが目的だ。アナーキストや極左だが、組織化されているわけではない。50年ほど前の日本での全共闘運動の頃は各セクトが競ったものだったが、それとは違う。同じ頃の「パリの五月革命」の頃できた極左政党は、いまは普通のデモ隊の方に入っている。