TSMCと日本の差とは?
SOCの設計、前工程、後工程そのものは、日立、東芝、NECなど日本の垂直統合型の半導体メーカーと、TSMCとで、基本的に変わりはない。
設計には4段階がある。まずシステム設計で、ある電子製品の仕様をCコードというプログラミング言語で書き表す。次に、アーキテクチャの設計で、それをソフトウエアとハードウエアに分離する。そのハードウエアが半導体集積回路(LSI)になる。さらに、論理設計で「1」と「0」の2進数でLSIを書き表し、回路設計で実際にトランジスタを配置した回路図にする。最後に、レイアウト設計では、回路図を基にパタンの原板(レクチル)をつくる。
そして前工程では、そのレクチルを使ってプロセス開発が行われる。プロセスフローが確立されたら量産に移行する。その後、後工程ではチップをパッケージに封入して各種の検査が行われる。これら各工程自体には、日本とTSMCには差がない。
では、日本とTSMCは、何が異なっていたのだろうか?
日本は「垂直統合」、TSMCは「水平分業」
日本の垂直統合型では日立、東芝、NECなど各社が独自の設計ツールを開発し、独自の手法で設計を行い、それを基に、独自の方法で前工程のプロセス開発を行ってSOCを量産し、独自のパッケージにチップを封入していた。設計から完成までをすべて一社で行う垂直統合型では、当然、日立の半導体と、東芝の半導体は互換性がない。
一方、TSMCは、設計、前工程、後工程を、徹底的に水平分業し、それぞれの世界標準化を推し進めた。
まず、設計については、米シノプシス、米ケイデンス、米メンターなど世界標準の設計ツール(EDA、Electronic Design Automation)ベンダーと協力して、その設計ツールに、セルと呼ばれる数百種類の機能モジュールを搭載した。その集まりをセルライブラリと呼ぶ。
その代表的なセルとしては、ARMが提供するプロセッサがあるが、セルライブラリに搭載されているセルはすべて動作が検証済みであり、さらにTSMCが前工程のプロセスも開発済みである。
このようなお膳立てが整った後、TSMCに生産委託するファブレスは、EDAツールに搭載されたセルライブラリから、必要なセルを選択して、まるでパズルのピースを並べるように設計すればよい。
以上のように、ARMなどの上流の回路設計データ(セル)を提供するベンダー、EDAツールベンダー、ファブレス、ファウンドリーのTSMC、そしてアセンブリメーカー(OSAT)が、一つのエコシステムを構築した。その結果、セルライブラリにアクセスできれば、いつでも、どこでも、誰でも、同じ設計ができるようになった。そして、世界中のファブレスが設計した半導体を、TSMCが量産するようになったのである。
以下では、このようなプラットフォームを築いたTSMCが、どのようなビジネスモデルを確立したかを説明する。