ファブレス&ファウンドリーが解決した問題
より複雑で大規模なSOCを設計する場合、そのSOC上でソフトウエアは本当に動作するのか? そのSOCがシリコンウエハ上で生産可能なのか? 完成したチップは本当に完全動作するのか? そのSOCの歩留りはどのくらいか? ということは、半導体メーカーにとってきわめて深刻な問題だった。
というのは、SOCの設計コスト、マスク製造コスト、前工程のプロセス開発コスト、量産に関係する設備投資コストなどのすべてが高騰しており、新しくSOCを設計して前工程で半導体チップをつくってみたけれど動作しなかった、では済まないからだ。もし、そのようなことになると、その設計を行ったファブレスは倒産する。
このような中で、ファブレス&ファウンドリーが俄然注目を浴びることになった。先述したように、ファブレスがSOCを設計する際に使う世界標準のEDAツールには、動作が検証されたセルが多数搭載されている。したがって、ファブレスは、目的とするSOCに必要なセルを選択して設計すれば、このセルは動くだろうか? このSOCは動作するだろうか? というような心配は一切ない。
こうして、TSMCにSOCを生産委託するファブレスは、ほとんどリスクなく、半導体を生産してもらうことができるようになった。
TSMCは「世界のインフラ」
TSMCが中心となって構築したファブレス&ファウンドリーは非常に強力であるため、垂直統合型の車載半導体メーカーのルネサスなども、自社が生産できない先端半導体や、レガシーな(旧世代の)半導体であっても自社の生産能力以上に増産するときは、TSMCに生産委託できるように、最初からTSMCのセルライブラリを使って、TSMCと互換性のある半導体を設計するようになった。
このように、TSMCが構築したSOCのプラットフォームを見ると、もはやTSMCの半導体工場は「世界のインフラ」といっても過言ではないように思う。