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半導体産業を根本から変えた

 ところが、1990年代初頭、アメリカ西海岸のシリコンバレーでは、設計を専門に行う半導体メーカー(ファブレスと呼ぶ)が誕生し始めていた。

 ファウンドリーのTSMCとファブレス。この二つの要素が相乗効果を生み出し、歴史が動き始める。シリコンバレーでベンチャーとして次々と誕生するファブレスと、受託生産を行うファウンドリーの台湾のTSMCがお互いを利用し合い、正のスパイラルに突入していくのである。

 2022年時点で、ファブレスは世界で3000社を超えている。もしモリス・チャンがファウンドリーを始めなかったら、このようなファブレスは存在しなかっただろう。前掲のNHKの番組中でモリス・チャンが言っているように、彼は、「半導体産業を根本から変えてしまった」のである。

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 番組を見た2013年当時、モリス・チャンは81歳だったが、バリバリの現役のCEOとして、TSMCを牽引し、ファウンドリーとして世界半導体業界をリードしていた。かつて、TSMCの技術を見下し、ファウンドリーなんて成功するはずがないと高をくくった自分が恥ずかしくなる。まさに恐れ入った。

 では、ファウンドリーとして、TSMCが躍進を遂げた理由はどこにあったのだろうか?

躍進の鍵は「設計を制した」こと

 日立、東芝、NECなど日本の電機メーカーは、2000年頃に、エルピーダメモリ1社を残して、全てDRAMから撤退し、ロジック半導体に舵を切った。そのロジック半導体の中でも集積度が大きく、1チップで一つのシステムを動作させる半導体をSOCと呼ぶ。例えば、スマートフォンのアプリケーションプロセッサ(AP)は典型的なSOCである。

 2000年以降の約20年間で、日本のSOCはほぼ壊滅的になったのに対して、TSMCは世界中のファブレスなどから生産委託が殺到する圧倒的なファウンドリーに成長した。この差はどこにあったのだろうか?

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 筆者は同志社大学で経営学を研究していた2005年に、日立から九州工業大学に転籍した川本洋教授(当時)に、日本の垂直統合型の半導体メーカーとTSMCの差について解説を受けた。

 一言でいえば、TSMCの躍進は、SOCの受託生産のプラットフォームを構築したことにあった、ということになる。TSMCは、世界中のファブレスが設計しやすい世界標準の仕組みを構築した。つまり、TSMCは受託生産専門であるが、ある意味で設計を制したことにより、盤石のファウンドリーの地位を築くことができたのである。

 それでは、TSMCが構築したプラットフォームとはどのようなものなのだろうか?