シニアの自由な選択を可能とする国や社会のあり方を目指すべき
これが活動理論と離脱理論の議論だと考えると、どちらが正しいということにはならないだろう。活動理論と離脱理論には、シニアの生き方に関する価値観や信念の側面もある。シニアはこう生きたほうがいい、という価値観や信念だ。その価値観や信念を社会全体に一律に主張されると押し付けになるが、個人がその価値観や信念に従って生きることは、誰からもとやかく言われる筋合いのことではない。各人が自由に選択すれば、それでいいだろう。
『定年後』についても、シニアは働くべきと主張はしていない。社会とつながりを持つことは望ましいが、それは仕事でもいいし、それにこだわらず自らの興味、関心で幅広く考えてもいいということだった。そして『定年後』への反論は、それすらも必要なく、何もしなくてもいいということだった。筆者もシニアが何をしたいかという選択は、個人が自由に行えばいいと考える。国や社会が、シニアはこれをすべきだと押し付けることは、個人の自由な選択を妨げる。むしろ、シニアの自由な選択を可能とする国や社会のあり方を目指すべきだろう。
シニアの定年後の実態
シニアの自由な選択を前提としたうえで、その定年後の実態を考えてみたい。以下に『令和4年版高齢社会白書』のデータを参照してみたい。
まず、経済的な暮らし向きについてであるが、65歳以上で心配がないと答えた者は合計で68.5%である。他方、心配であると答えたものは31.2%である。暮らし向きが心配である場合は、生計のために働かざるを得ない状況の人もいると考えられる。
次に実際に働いている人の割合である。男性が就業している割合は、60~64歳で82.7%、65~69歳で60.4%、70~74歳で41.1%である。女性の場合は、60~64歳で60.6%、65~69歳で40.9%、70~74歳で25.1%である。60歳以降も就業の割合は高く、特に男性の場合が高くなっていることがわかる。また、何歳頃まで働きたいかという質問については、65歳くらいまでが25.6%、70歳くらいまでが21.7%、75歳くらいまでが11.9%、80歳くらいまでが4.8%、働けるうちはいつまでもが20.6%であり、60歳以降も就業を希望する割合も高いことがわかる。