収入のある仕事は生きがいにつながる
前出の『令和2年版高齢社会白書』では、シニアの経済生活の特集を組み、働き方の実態をより詳細に分析している。60歳以上の男女の収入のある仕事をしている人で、仕事をしている理由は、「収入がほしいから」(45.4%)、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」(23.5%)、「仕事そのものが面白いから、自分の知識.能力を生かせるから」(21.9%)、「仕事を通じて友人や仲間を得ることができるから」(4.4%)である。つまり、収入を得る目的は一番比率が高いものの半分以下であり、それ以外は仕事を通じて収入以外の何かを得ることを目的としている。
さらに、60歳以上の男女で生きがいを感じている比率は全体で79.6%である。このうち、収入のある仕事をしている場合は85.0%、していない場合は76.4%となり、収入のある仕事をしている場合のほうが比率は高い。
繰り返しになるが、シニアがどう生きるかについては、自由に選択できることは当然だ。ただし高齢社会白書のデータを要約してみると、次のようなことがいえる。シニアで働いている人の比率も、働き続けたいと希望する人の比率も高い。またシニアが働く理由は収入を得る目的が多いものの、それだけではなく多様化している。くわえて、収入のある仕事をしているシニアのほうが、生きがいを感じている比率が高い。データからいえることは、シニアにとって収入のある仕事に従事することは、それを希望する者も多く、収入や生きがいにつながるという点で、重要な選択肢に数えてもいいことだ。
シニアの仕事の内容における選択肢の前提を見直す
シニアにとって、仕事に従事することを選択肢にくわえることまでは誰にも異論はないだろう。では、その仕事の中には、どんな選択肢があるのだろうか。従来、定年後の仕事の主な選択肢は3種類だと考えられていたと思われる。第1が今の組織での現職継続、第2が転職、第3が起業である。しかし筆者はこの3種類の分け方は従来の考え方の延長線であって、柔軟性を欠いていると考える。なぜそう考えるのかについて、以降説明したい。
『ほんとうの定年後』という書籍がベストセラーになっている。定年後の仕事の実態をデータに基づき、つまびらかにした内容だ。定年後の実態を一言でいえば、「小さな仕事」が中心であり、それで暮らしも成り立つし、幸福感を得ることもできるという。それはなぜか。まず総務省の家計調査を分析し、世帯の支出と収入の差を分析し、年金等による収入を計算してみると、月に稼がなければならない額は10万円程度になるという。また60代の管理職の比率は少なく、現場の仕事をしている人が多い。しかし仕事の負荷は下がり、ストレスから解放される。このように定年後を総体で捉えると、労働時間は短いが収入も少ないという小さな仕事に従事する人が増える。ところが、定年前より仕事への満足度、幸福感は上昇するのだという。それゆえ、仕事とは競争に勝つこと、高度な専門性を追求することという価値観を、小さな仕事で無理なく働くものへと変えることが重要だという。