この扁桃体のハイジャックが起こると、瞬間的に「自分は醜い」という強烈な感情の渦に飲み込まれてコントロールを失ってしまいます。呼吸が浅くなったり、身体がほてったり、視野が狭まったりなどの反応が起こることもあります。
患者さんがそういう状態を経験した場合は、抗不安薬や気分安定薬、少量の抗精神病薬を処方して感情の揺れ幅を小さくし、それによってストレスにさらされたときの自傷行為や自殺の衝動を抑えることを期待します。
根本的な治療にはなりませんが、風邪を引いたときにまず熱を下げることと同じで、対症療法としては効果があり、結果的に治療の流れをよい方向へと導いてくれることもあります。
回復力はあなた自身が持っている
とはいえ、精神科の薬物治療は、現状ではほとんどが対症療法でしかありません。
「こころの病」と言いますが、私たちの「こころ」がどこにあり、どのように機能しているのかもまだ何も解明できていないのが現状だからです。
脳科学の進歩のおかげで、こころと脳との関係が少しずつ明らかになってきていますが、現在使われている薬は、ドーパミンやセロトニンなど、一部の神経伝達物質の発現量を調節する効力を持っているというだけで、万能薬のように使えるものではありません。
もちろん、どうしても薬に頼らなくてはならない場面はあります。対症療法といえども、いま命をつなぎ止めるために唯一可能な選択肢だという場合もあるからです。
それでも、最終的にあなたを回復に向かわせるのは、薬ではなくあなた自身です。
人の身体の病気は、基本的には自然治癒力によって治ります。身体につながるこころにもやはり同じように、自然治癒力があるのです。
本来のあなたには、その力が備わっているということを、どうか忘れないでください。