自分の顔が嫌いでたまらない――そんな気持ちにとらわれてしまう「身体醜形症」という心の病。そうした悩みを抱えて美容整形を繰り返し、さらに症状が悪化する人もいるという。
ここでは精神科医・形成外科医である中嶋英雄氏の著書『自分の見た目が許せない人への処方箋』(小学館)を一部抜粋して紹介する。「身体醜形症そのものに確実に有効な薬物療法はない」と語る中嶋医師。ならば、どのように対処すべきなのか?(全2回の2回目/最初から読む)
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身体醜形症というこころの病は、性別を選びません。
私の印象では、患者さんの男女比は1対3ほどの割合ですが、最近ではルッキズム(外見に基づく差別)という社会の風潮のせいか、男性でも外見の美醜にとらわれて悩む人が増えていると感じます。
育った環境の影響で、健全な自己愛を育む機会がなかったかもしれないという点では、性差はもちろん関係ありません。ただ、女性が母親や姉妹と自分を比べて優劣を意識しがちなのに対して、男性の場合は、思春期の心身の成長にうまく対応しきれず、大人への入り口でつまずいてしまっている人が多いなという印象があります。
そのため“男らしく”変化した部分に嫌悪感を抱きがちで、存在感を増してきたヒゲやその剃り跡、肌の質感やのど仏などが許せないという人もいます。「男らしくない顔にしたいけれど、どう整形したらいいか」という相談も何度か受けました。
「一人前の人間としてちゃんとやっていけるだろうか」という思春期の不安を抱えたまま、なかなか自分に自信を持てずにいるのでしょう。「大人になるのが怖い」と感じて、人とのかかわりを避けて引きこもってしまうこともあります。
ある患者のケース
ある患者さんは、子どもの頃から成績優秀でトップを走っていましたが、仕事のミスのせいで上司との関係がぎくしゃくしたことをきっかけに、人とのコミュニケーションに苦手意識が生まれ、「自分の顔が汚いから全部ダメなんだ」という思いにとらわれるようになりました。
中学生の頃にニキビ顔をからかわれた記憶がよみがえり、ニキビ跡が無性に気になり出して嫌でたまらなくなったのです。美容皮膚科でレーザー治療を受けて見た目は綺麗になりましたが、自分の顔への嫌悪感は消えません。
他人の視線がつねに自分の顔に向けられている気がして外出するのが怖くなり、しだいに会社にも行けなくなりました。ひとりで悩みを抱えるうちに苦悩が増幅し、自殺を考えるようになったのです。