俳優の新田真剣佑さんによる「父・千葉真一の遺志を継いで」を一部転載します(文藝春秋2023年6月号)。
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大人気漫画を実写化した映画『聖闘士星矢 The Beginning』(東映)で注目される新田真剣佑氏。ハリウッド映画の主演という大役を果たした新田氏は、一昨年急逝した俳優・千葉真一氏の長男で、幼い頃から極真空手やレスリングなど数々の格闘技を習ってきた。今作ではその経験を惜しみなく披露し、圧巻のアクションで魅せる。
生まれ育ったアメリカで俳優としてのキャリアをスタートし、その後日本で本格的に芸能活動を始めてからは約7年になります。今回、『聖闘士星矢 The Beginning』(以下『聖闘士星矢』)で初めてハリウッド映画の主演を務めることになりました。
僕は幼い頃からピアノや乗馬など様々な習い事をしましたが、特に極真空手など格闘技には力を入れていました。こうした経験を活かして、これまでも日本の作品で芝居に加えて本格的なアクションを演じてきました。
今作は、幼い頃の経験から日本で積んできた俳優としての経験まで、僕の全てがこの作品に繋がっているのではないかと思えるほどの自信作になっています。
「あえて原作は見ないで」
『聖闘士星矢』の主人公・星矢役を演じることに決まったのは、今から3年ほど前のことです。世界各国の俳優を対象としたオーディションに参加して、何度も選考のためのテストを受け、ようやく主役に決まりました。
『聖闘士星矢』は車田正美さん原作の少年漫画で、1985年から「週刊少年ジャンプ」で連載されました。アニメ版は80以上の国と地域で放送され、日本だけでなく世界中に熱狂的なファンがいる作品です。今回の実写映画版では、最初から最後まで本格的なアクションシーンが続き、令和の『聖闘士星矢』の魅力が出せていると思います。
実は僕は原作を読まずに撮影に挑んだのですが、それはオーディションに参加した時、トメック・バギンスキー監督に「あえて原作は見ないでほしい」と言われていたからです。監督は小さい頃にアニメ版を見ていて作品の大ファンだったようですが、実写映画はあくまでも生身の人間が演じるもの。いくらアクションやCG技術に長けていても、漫画やアニメを完全に再現することはできません。全く同じことはできないのだから、それなら新しいものを作ろう、というのが監督の考えでした。
もちろん原作へのリスペクトは撮影チーム全員が持っているので、漫画やアニメ版の要となる部分は大切に描いています。核の部分は残しながら、今の時代に合った作品を作ろうという気持ちを、チームのみんなが共有していました。
なので僕も「映画を見た原作ファンはどう思うだろう……」といったプレッシャーは撮影中からまったく感じていませんでした。というより、そんなことを考える余裕がなかった、と言った方が正しいかもしれません。それだけ、日々の撮影はハードでした。