「とにかく……、恥ずかしい。惨めだと思う。ツラい……。ツラいし、しんどいし、惨めで、苦しい。恥ずかしい。すごく嫌だ! もう辞めたほうが良いんじゃないかなって俺は思ってる」

『だが、情熱はある』(日本テレビ)第5話で、King & Princeの髙橋海人演じる若林正恭は、自宅の「むつみ荘」で能天気にパンツ一丁で野球帽を被って西武ライオンズを応援していた春日俊彰(戸塚純貴)に向かって、売れる気配もなく「自分がどこに向かっているかもわかってない」状況を嘆き、心情を吐露する。

 髙橋迫真の演技に胸を締め付けられる名シーンだ。それに対し、春日は「あのー、私、どう考えても幸せなんですけど」と答え若林を唖然とさせた。

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オードリー若林正恭 ©文藝春秋

若林と春日の「生きるセンス」はズレていた

 このエピソードは、若林と春日の性格の違いをあらわす話としてオードリーファンの間でとりわけ有名だ。原作のひとつにあげられているエッセイ『社会人大学人見知り学部卒業見込』ではこう綴られている。

「むかし事務所からも見放されファンもいない時期、相変わらず努力をする姿勢の見えない春日に変わってもらいたくて『二十八にもなってお互い風呂なしのアパートに住んで、同級生はみんな結婚してマンションに住んでいるというのに、恥ずかしくないのか?』と問いつめた。相方は沈黙した。

 三日後、電話がかかってきて、春日は『どうしても幸せなんですけど、やっぱり不幸じゃないと努力ってできないんですかね?』と真剣に言ってきた」(※1)

 ちなみに春日はその3日間を「人生で一番考えた瞬間」と述懐している。

オードリー春日俊彰 ©文藝春秋

 若林は「常に今の自分より良い自分、今の環境より良い環境に行かなければならない」と考えるのが当然だと思っていたが、春日はそうではない。いま、その現状の中で楽しみを見出し、幸福感を得ているのだ。

 若林は「風呂なしに住んでる」「金が無い」「何かが払えない」「飯も食えない」というネガティブな要素をつなげて苦しんでいるのに、春日は「ピノが美味しい」「オムライスのおにぎりが50円になってて美味しかった」など小さな幸せをつなげて楽しそうにしている。「生きる才能」が抜群なのだ。若林と春日には「生きるセンス」に大きなズレがあった。

「まえけん」こと前田健の言葉

 オードリーが所属するケイダッシュステージはお笑いの事務所としては新興といっていいだろう。1995年に加入した1期生は、東京アナウンス学院出身の原口あきまさとはなわ。同学院のお笑いコースの先生がケイダッシュのマネージャーでバラエティ班を立ち上げた。

 オードリーが事務所に入ったのは2000年。「洋服は原口さんとはなわさんのお下がりを着ていた20代の10年間」というように、数少ない芸人の先輩として世話になっていた。

 そしてもうひとり、下積み時代のオードリーにとって大きな存在だった先輩が、44歳で早逝した「まえけん」こと前田健だ。

『だが、情熱はある』に登場する「たにしょー」こと谷勝太は、前田がモデルだろう。その谷を演じるのは前田が憧れていた藤井隆だ。

 彼は、初対面の若林に向かって言う。

「みんな死んじゃえって顔してるね」