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 深夜、ジャニーがベッドに入ってくる感触で目が覚めた。まったくの無言でマッサージとも愛撫ともつかないボディータッチが数十分続き、口にディープキスをされた。初めての性体験だった。そして陰部を弄られた後、オーラルセックスをされた。

「恐怖心もあって、体は硬直していました。頭の中だけが動いていて、ここで抵抗したらJr.としての自分は先がなくなるのかなとか考えていました」

 体感としては1時間ほどで、行為が終わった。ジャニーは洗面所からタオルを取ってきて二本樹の体を拭き、歯磨きを済ませた後に再びベッドに潜りこんできた。そして二本樹を抱擁するとそのままの姿勢で朝まで眠った。

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 翌朝、一睡もできなかった二本樹に、ジャニーは1万円を渡した。「これで何か買いなよ。美味しいもの食べなよ」。前夜の出来事については一切口にしなかった。

以降、露出は増え、憧れのV6のバックにも

 その日を境に、二本樹の露出は目に見えて増えた。テレビ出演、コンサート出演、雑誌の撮影……。憧れていたV6の後ろで踊れるようになった時は特に嬉しかった。

 活躍している同世代のJr.たちとは、当たり前のように“通過儀礼”の話をした。

「Jr.同士の会話の中では、今日はジャニーさんにこんなことをされたとか、いかにターゲットにならないようにするかの策を練るとか、性行為に関する話題が普通に出ました」

 二本樹が初めて被害に遭った夜に隣のベッドに寝ていたJr.からも、同じ日、二本樹が目を覚ます直前に被害に遭っていたと聞かされた。

 複数人の話を聞くうち、自身と同じように受け身での被害が多いものの、別のパターンがあることも知った。

「ジャニーさんから特に気に入られている子だと、する側にもならないといけなかったと本人たちの口から聞きました。今思えばえぐい話もありました」

 ただ、当時は、“えぐい話”を語る方も聞く方も抵抗がなかった。

「あまりにも常態化しすぎていて、皆、感覚が完全に麻痺していたと思います。少なくとも合宿所に行っているJr.は手を出されているだろうという共通認識がありました。皆が経験者なので、経験者同士という枠の中ではその話に触れることに抵抗がなくなるんです」

 ローティーンの日常会話として異様だと今ならわかるが、多忙なJr.たちは学校や家庭などで別の感覚を養うことなく、「ジャニーズ一色の世界に生きていた」という。

二本樹自身は、両親に知られるのは後ろめたいと感じていた。

「子どもなりに、事務所の社長だから許されるのかなと思いながらも、大人が子どもにそういう行為をするのは悪いことだという認識はあったのでしょうね」

二本樹さん ©文藝春秋

頻繁に全日空ホテルなどの“合宿所”へ

 最初の被害から半年から1年ほどの間、二本樹はジャニーから頻繁に、東京全日空ホテルや六本木アークヒルズの合宿所に泊まるよう言われた。

 そのことは事務所スタッフも把握していた。

 ジャニーは自身が送迎できない時、マネジャーに「今日このJr.は泊まりだから」と指示し、代わりに送り届けさせていたからだ。二本樹の自宅は都内にあり、レッスン後に電車で帰ろうと思えば帰れた。マネジャーはそれを知りながら、ジャニーの指示に従っていた。

 中学生の二本樹は、その都度自分で自宅に電話し、外泊許可を取っていた。「親は親で、息子がジャニーズ事務所に入ってテレビなどに出るようになったことに舞い上がっていて、感覚が麻痺していたと思います」と二本樹は振り返る。

 そして少なくとも10回程度、ジャニーからの性被害に遭った。初回と同じ流れで行為を受けた。そして翌朝、エレベーターの中や、車を降りる時に、1万円、多い時は2万円をさっと手渡してきた。仕事のギャラは親が管理する銀行口座への振込になっており、性行為の翌朝以外には現金を受取ることはなかった。

「当時既に、これは性行為の対価として渡されているんだなという認識はありました。13歳くらいだと1万円って大金じゃないですか。そんな大金を見せられて戸惑う感覚と、ジャニーさんと自分への嫌悪感。その両方がいつも湧きました」

 次第に、テレビに出ても、ダンスでセンターになっても、喜べなくなっていった。

「上にはもっと活躍している子たちもいるけど、下には全然ポジションを取れない子たちもいる。その中で自分がマイクを持たせてもらえたり、いいポジションを確保したりできるのは、性行為をしているからだろうなという複雑な思いがありました。待機生の中にも明らかに実力ある子がいるんです。歌も踊りも上手でルックスもいい子なのに、合宿所に行かないことで前に出てこられない子が。事務所のカラーと合わなかったと言われればそれまでですが、基本的には、ジャニーさんに気に入られないと上に行けない世界でした」

性行為を拒んだJr.は…

 二本樹が継続して被害に遭っていた時期、あるJr.が合宿所でジャニーに服を脱がされそうになり、抵抗して行為を止めさせたという話が出回った。しかしそれからその子を見かけることが減り、いつのまにか消えていった。

「やっぱり抵抗できないんだと思いました。性行為を拒んだらJr.として終わるんだ、と」

(敬称略)

本記事の全文、および秋山千佳氏の連載「ルポ男児の性被害」は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

 

■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編 「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編 《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」
第2回・前編 中学担任教師からの性暴力 被害者実名・顔出し告発《職員室で涙の訴えも全員無視》
第2回・後編 《実名告発第2弾》中学担任教師から性暴力、34年後の勝訴とその後「ジャニー氏報道に自分を重ねる」
第3回・前編 《実名告発》ジャニー喜多川氏から受けた継続的な性暴力「同世代のJr.は“通過儀礼”と…」
第3回・後編 《抑うつ、性依存、自殺願望も》ジャニー喜多川氏による性暴力 トラウマの現実を元Jr.が実名告発
第4回・前編 「なぜ今さら言い出すのか」性被害を訴えた元ジャニーズJr.二本樹顕理さん 誹謗中傷に答える
第4回・後編 「ジャニーさんが合鍵を?」元Jr.二本樹顕理さんを襲った卑劣な“フェイクニュース”
第5回・前編 「性暴力がなければ障害者にならなかった」41歳男性が告発 小学3年の夏休みに近所の公衆トイレで…
第5回・後編 《母は髪がどんどん抜け、妹からは「キモい」と…》性被害後の家族の“拒否反応”の真実 41歳男性が告白
第6回・前編 目の前で弟に性虐待を行う父親 「ほら見ろよ」横で母親は笑っていた《姉が覚悟の実名告発》
第6回・後編 「絶対に外で言うなよ」父親の日常的暴力と性虐待の末に29歳で弟は自殺した《姉が実名告発》
第7回・前編 NHK朝ドラ主演女優・藤田三保子氏が“性虐待の元凶”を実名告発「よく死ななかったと思うほどの地獄」
第7回・後編 「昔、兄にいたずらされたことが」塚原たえさんの叔母、藤田三保子氏が“虐待の連鎖”を実名告発

 

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秋山千佳サイト http://akiyamachika.com/contact/