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 中国はかつて立憲君主制や西欧のような民主主義制を試みた時代もあったが、最終的に共産党による一党支配体制の道を選んだ、と習は述べている。

「世界各国のどんな体制にも存在するだけの道理があります。以前、オバマ大統領と会談した際に、『もしアメリカに生まれれば、私は共産党には入党したくない。アメリカの共産党には何の地位もないからです。共和党か民主党のどちらかに入党するでしょう』と冗談を言ったことがあります。一方で中国人であるからには、最も政治的に影響力のある共産党に入る他に選択肢はないのです」

 この発言は、今年2月に発売された『安倍晋三回顧録』でも披露された。安倍は、習が政治権力を掌握するために共産党に入った強烈なリアリストだと感じたと述懐している。

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 実はこの場面には続きがある。安倍は「となると、習主席が日本に生まれていれば、私たちの自民党に入っていたということでしょうか」と聞いているのだ。すると習は笑みを浮かべて答えた。

「日本には生命力を持った政党が数多くあります。私が日本人なら、その中から最も生命力のある政党に入りますね(笑)」

 この発言を聞いた瞬間、習の側近たちの顔は見る見るうちに青ざめたという――。

「真の習近平体制」に移行

 今年3月の全国人民代表大会で、国家主席として異例の三期目体制を本格的に始動させ、現在も習近平は絶大な権力を維持している。昨年10月の共産党大会では、胡錦濤前国家主席が途中退席を促され、世界に衝撃が走った。その強権的な姿勢から、「真の習近平時代」に移行したと指摘する声も多い。しかし、ここに綴った会談での習の発言は、今後は聞くことができないような人間味のある内容で、ユーモアのセンスも垣間見える。

安倍元総理と習近平国家主席 Ⓒ時事通信社

 安倍は、2013年に国家主席となった習と、幾度も首脳会談を行ってきた。だが、習は警戒心が非常に強く、何かの出来事をきっかけに一気に関係性が深まるようなタイプではない。それこそ階段を一段ずつのぼるがごとく、長い時間をかけて交流を重ね、安倍は徐々に本音を引き出せるようになったのだ。

 安倍や外務省幹部から聞いた話では、首脳会談の場では、忌憚のない語り合いや、激しい議論が交わされることもあったという。今回は安倍の話をもとに、中国との知られざる外交の内幕を描いていきたい。