最後で読者を置き去りに・・・
物語のクライマックス、ナウシカは自らを「母」と慕う巨神兵と共に、土鬼の首都にある「シュワの墓所」へとたどり着く。墓所は、腐海や王蟲を使って地球を浄化・再生する計画の中枢だった。巨大産業文明の崩壊後、千年の時を経てきた「生ける人工知能」ともいうべきシュワの墓所の主は、ナウシカにこう告げる。「永い浄化の時にそなた達はいる だがやがて腐海の尽きる日が来るであろう 青き清浄の地がよみがえるのだ」「清浄な世界が回復した時、汚染に適応した人間を元にもどす技術もここには記されてある」「わたしは暗黒の中の唯一残された光だ」「人類はわたしなしには滅びる」と。
しかし、ナウシカは、地球の浄化・再生という、一見非の打ちどころのない正しいことをしている墓所の主に対して「否(いな)!!」「そなたが光なら光など要らぬ」と叫び、巨神兵の力を使って墓所を完全に破壊してしまうのだ。
トルメキアと土鬼の戦争で人間が住める土地の多くは腐海に飲み込まれ、大量の難民が発生し、「唯一残された光」はナウシカ自身の手で消滅させられた。ナウシカは「現生人類は浄化された環境では生きられない」という秘密を人々には明かさず、「私達が亡びなければ、いつか明るい世界が両手を広げて迎えてくれるでしょう」と偽りの希望を語り、「さあ、みんな出発しましょう どんなに苦しくとも」と励ます場面で物語は終幕を迎える。
ナウシカはなぜ、シュワの墓所を破壊してしまったのか。腐海の力で環境の浄化は今後も進むだろうが、現生人類は遠くない将来に滅亡してしまうのではないか。ナウシカは救世主であるどころか、人々を欺き、人類が生き延びる希望を破壊した「悪魔」ではないのか――。
宮﨑さんはこれらの疑問に対しては何も答えず、最後のコマで「語り残した事は多いがひとまずここで、物語を終ることにする」という言葉を残し、読者を置き去りにしてしまう。「君たちは、この世界でこれからどう生きるのか」。宮﨑さん自身が、読者に対してこう問いかけているようにも受け取れる。