寺門ジモンは地球最強の生命体? 水道橋博士著『藝人春秋2 上 ハカセより愛をこめて』『藝人春秋2 下 死ぬのは奴らだ』より、伝説と化す寺門ジモン最強論から一部を公開します(寺門ジモン最強伝説1より続く)。

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「ライブで証明してください!」

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『藝人春秋2 上 ハカセより愛をこめて』(水道橋博士 著)
『藝人春秋2 上 ハカセより愛をこめて』(水道橋博士 著)

 

 誰もが眉に唾をつけ疑うばかりの寺門ジモンの自称「人類最強説」を観衆の前で実証してもらうために、我々浅草キッドは主催ライブ『お笑い 男の星座祭り』を企画し、メインゲストにジモンを招聘した。

「客前で、しかも口先だけでなく、体を使った実演で証明してください!」

 その依頼をジモンは躊躇(ちゅうちょ)なく、二つ返事で引き受けた。

 

(ジモンによる「オッ俺」「オオオ俺」などの吃音表現は、再現すると台詞がひとつひとつ長くなるため、以降は極力割愛する。読者の諸君には、是非、脳内でジモン風に台詞変換を行っていただきたい)

 

 2003年8月22日――。

 まだ世の中が小泉政権だった頃の夏だ。

 ジモンが自らの最強伝説を客前で証明する――それはつまり、妄想が現実に晒され、自らの商品価値を失う、絶体絶命、危機一髪の状況でもあった。

 そのため、打ち合わせの段階で、ジモンが「それは勘弁してよ」と言い訳を並べたり、「そこは条件ユルくして」と予定調和的なことを要請するのでは……と、我々も当初は危惧していた。

 しかしながら、当のジモンとは本番当日まで直接の打ち合わせは一切なく、それどころか、こちらが実演を依頼したメニュー全てにOKを出し、並外れた潔さで対応した。

 我々が、この日、ジモンを待ち受けるのは、JR中野駅から徒歩10分ほどの場所にある、イベントホールの「なかのZERO」。

 そこは中野区民にとって憩(いこ)いの場であり、紅葉山公園に隣接しているため、普段は多くのファミリーが子供連れで戯れている。そこへ史上最強を名乗る芸人界随一の変人が現れるのだ。

 ジモンは、予定より1時間も早く、何の前触れもなく、非常口から不意に現れるや否や、すでにテンパっていた。

 我々やスタッフとの挨拶もほどほどに、「ちょっとチェックさせてね」と言うと、客席を映す楽屋のモニター機材に張り付いたまま、血走った目で場内を隅から隅までくまなくカメラ越しに見渡した。そして、

「うーーーん。どうやら、今のところ客席には、公安や、敵側のスナイパーが紛れてはいないようだな」

 と言い放ち、いきなり我々の度肝を抜いた。

左:寺門ジモン 右:スマイリーキクチ ©近藤俊哉 /文藝春秋

「ジモンさん、今言っていることは本気ですか? それともギャグですか?」

「はぁ? ギャグでそんなこと言ってたら、そんなの、おかしい奴だろ? いいかい、今日は俺は銃を持って来てるんだぞ。こっちが既に武装済みなんだから、相手もいつ襲ってくるか分からないだろ? そうなったら殺られる前に殺るしかないからね」

「その何者かに命を狙われている設定って、今もずっと続いているんですね」

「芸能界に潜入したスパイ」というボクの文学的妄想の中の設定と違い、ジモンは、本当に地下組織から派遣されている、殺しのライセンスを持つ工作員なのかもしれない。

 リアクションに困る周囲をよそに、ジモンはさらに重ねて呟いた。

「ようやく、俺の本当の扉を開く時が来たかぁ……」