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 とにかくこの日のジモンは、故・ナンシー関に「ダチョウ倶楽部で唯一面白くない人」とかつて評されたのが嘘のように、終始、面白すぎる怪人として観客を魅了し続けた。

 そして、終演後――。

「悪いけどさぁ、俺、打ち上げには行かない主義なんで。ここらでそろそろ……」

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「ジモンさん、今日の主役ですよ。ホントに帰っちゃうんですか?」

「うーん。これはマジなんだけど、こういう時を狙って、あえて挑戦に来る刺客に待ち伏せされる可能性があるんだよね……。これ、打ち上げの足しにして」

 そう言って、ジモンは例のポシェットから幾ばくかのお金を取り出し、テーブルに置いた。

 ボクは「絶対、大丈夫です。店の前に見張りも立たせますから」と説得を試みたが、「いいから、もう何も聞かないで……」と断固として譲らず、ひとり足早に楽屋を立ち去ったのだった。

 

 この日のライブで自信を得たのか、あるいは事務所と他のメンバーに公認を得たのか、その後、ジモンはなし崩し的に最強キャラをテレビでも解禁した。

 テレビ東京のバラエティ番組『やりすぎコージー』で東野幸治に「ネイチャージモン」と名付けられたのを機に、「ネイチャー!」なる謎のギャグを持ちネタとして展開。

 ついに2006年5月からは『寺門ジモンのネイチャートーク』なるトークライブを始めるまでになった。

 テレビバラエティの名手たる今田・東野のWコウジにお茶の間ルールの中で、その異常性を美味しくイジってもらう姿は容易に目に浮かぶが、単独ライブで誰の制御もなく語るジモンには、むしろ不安感が募った。

 ボクは日本に数少ないジモン研究家として、ダチョウが羽根を伸ばし、華麗に飛び立つ瞬間をこの目で見届けたいと思い、トークライブの第1回が行われる新宿歌舞伎町のロフトプラスワンに足を運んだ。

 しかし、「ロフトプラスワン」と言えば、サブカルの聖地にして、思想家・活動家の拠点である。
「ネイチャートーク」などという看板は一見、自然環境保護団体の講演会のようだが、場所が場所だけに額面通りに受け取る者などなく、いつネイチャーがソルジャーに変貌し、非合法活動家武装決起集会と見られても反論する術がないような場所なのである。

 当日、ボクは本番前に楽屋へ挨拶に行ったが、相変わらずジモンは異常なまでのテンパリ具合であった。「大丈夫かな?」と何度も不安を口にし、一向に落ち着かない。

 なにしろ、本番と進行には、めっぽう弱いジモンである。

 そんな危惧を踏まえてか、司会・進行は同じ事務所の太田プロダクションに所属する、スマイリーキクチが務めることになっていた。

 スマイリーキクチは空手の有段者でもあり、一部には芸能人セメントマッチ最強説もある猛者だ。
「腕立て最低500回というジモン軍団の入団テストに受かる体力があるのは、芸人ではスマイリーしかいない」という理由で、ジモンに認められたようだ。

©近藤俊哉 /文藝春秋