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寺門ジモン最強伝説2――水道橋博士『藝人春秋』特別公開 

『藝人春秋2 上下』(水道橋博士 著)から一部を公開

2018/02/24

 そして、定刻の20時にライブが始まった。

 冒頭、客席を見回すジモンに想定外の光景が……なんと会場には大勢の女性客が詰め掛けていたのだ。

 ジモンが連載中の女性誌『mina』を読んで来た、という女性客に向かって、『8時だョ!全員集合』のいかりや長介よろしく、ジモンが大喝一声。

「ナイスネイチャー!!!」

 観客は拍手喝采。金を払ってまで、ジモンを見てみたいと思うような好事家には、このギャグもすっかり浸透しているようだ。

「いいかい、今日来た人たちの中でも、出口付近に座っている人はナイスネイチャーだよ。なぜなら、災害や危険時に逃げられやすいから。しかし! 何があっても5分間は動かないで! 暴動が起きた時、すぐに動くのは危険だから」

 そして、帽子をかぶっている客を見つけると、「君、ナイスネイチャー! ゴルフで不意にOBボールが飛んできて、帽子ひとつで命が助かることがあるんです。なぜ、とび職の人が頭にタオルを巻いているか? それは転倒した時に、タオルが頭を守ってくれるから!」などと最初から自分がOB連発、横道に逸れながらのスタートとなった。

「いいかい。最初に言うけど、これは重要なことだよ。いつ大地震が来るか分からないから。俺はいつも逃げる方向を考えている。今日のロフトプラスワンだったら、歌舞伎町のほうに逃げちゃダメ! 日清パワーステーションのほうに行けよ。725歩でいけるからね。俺はすでに、ここに来る前に一度、歩数を数えてリサーチ済みだから」

 客席の陣地取りだけで最初の数十分を消費した後、スマイリーに促されて、ようやく段取りどおりの進行に入った。

 話題は、観客が待ち望んでいたテーマである、ジモンの真骨頂「山籠り」話に移る。

『お笑い 男の星座2』でも書いたが、ジモンは何度も山で野生の熊と闘っている、実戦経験の持ち主だ。

 しかし、なんと、熊と闘う際にも、TPO、季節、旬があるというのだ!

©山田真実 /文藝春秋

「みんなー、いいかい。この時期(5月末)なら熊が出ても大丈夫だから。安心して。冬眠から覚めてすぐなら危険ではない。なぜか、分かるかい? それは熊が体力がないからじゃなくて、この時期は熊の肉球が弱いから!」

 そう言って自分の掌をかざした。

「この時期の熊は、冬眠中に一皮むけるくらい掌が弱くなってて、硬い山道を歩けないから大丈夫なの。だからみんなー、安心して山に入って!」

 ちっとも安心できない危険思想を聴衆に吹き込むジモン。言うまでもなく、この日の観客は別に山籠りの愛好家ではないわけで、当然、この説明に対して苦笑い以外の反応はなかった。

 そもそも熊の攻撃力と肉球の硬さの相関データを必要とするのは、ジモンとマタギとムツゴロウぐらいであろう。

 さらに、ジモンが平時より闘いを想定しているのは、熊だけではなかった。