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 当初は半信半疑で見つめていた観客も、吃音ながら淀みのない解説を聞くうちに、ジモン支持にやや寄ったのか、徐々に反応が嘲笑ではなく感心を含んだ温かい笑いへと変質していった。

 ジモンもその反応にご満悦な様子で、「持ってきたよぉおオオオ!」と歓喜の声を上げ、持参したモデルガンとホルスターの秘蔵コレクションを客前で公開した。

「いいかい、自分の体に馴染む最高に“抜きやすい”ホルスターが完成するまで、これまでに何年もかけて40個以上、制作してきたんだよ」

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 そう言って肩に架けた革袋を手で愛でつつ、モデルガンを取り出すと、グリップが象嵌細工のものは実銃よりも遥かに高価なのだと力説。

「知ってる? これなんか実際の取引価格は皆が思ってる値段の20 倍以上だよ! マジで。ベンツを2台買えるんだから!」

 とっておきの逸品を握って豪語するや、「やるよ! 見逃さないで!」と突如、目にも止まらぬ速さで十八番のガンスピンを披露した。

 モデルガンをクルクルと自在に回転させ、ホルダーにストンと収めるまでの無駄のない所作、その華麗なデモンストレーションに客席から自然と拍手が沸き起こる。

 これだけの大喝采だ。当然、手を上げて応えるのかと思いきや――。

 上機嫌から一転、ジモンは顔をしかめ、客席を怒鳴りつけた!

「オイオイオイ! オォーイ!! こんなショーができたって何にも意味がないんだよぉお! こんなの只のプレイだぞ。俺の場合は拳銃を投げたり回したりした後、体の軸がねじれたり、体の不安定な状態からでも正確に撃てる! そのことのほうが大事なの。まぁ、実際、俺は現実にも撃ってるしね!」

©杉山拓也 /文藝春秋

 聞いている誰もが瞬時に「どこで!?」と心のツッコミを撃ち返したのは言うまでもない。

 話の流れで、ジモンがいつかどこかで勝負するであろうと決め込んでいる「世界一のプロガンマンのマーク・リードとは何者なのか?」と改めて聞いてみた。

「彼は空き缶を的にして連射して宙に浮かせることができる。まるで指で物を指すように正確に撃つんだ。映画『クイック&デッド』でシャロン・ストーンにガン捌きの技術指導しているのも彼なんだよ。ちなみに、俺はマーク・リードの友達と仲が良いんだけど、もしかしたら、今日、彼がこのライブに刺客を送り込んでる可能性もあるよ!」

 思わぬサプライズ発言で気を持たせながら、客席をグル~っと念入りに見渡し、こう呟いた。

「大丈夫……今日は来ていないようだな」

 吉本新喜劇よろしく、ジモン以外の全員が椅子からずり落ちた。