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 最後に行われた観客との質疑応答タイムにも見せ場があった。

「災害が起きた時の危険回避法は?」という質問に対して、「それは簡単!」とジモンが即答。

「それには普段からの人脈作りが大事なんだよ! まず天変地異の兆候は、築地に知り合いを作っておくのが一番早いから。そこから魚の水揚げ量の変化を常日頃聞いておくこと!」

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 いきなり普通の人にはハードルが高い。

「あと、自衛隊幹部と知り合いになれば、非常時に事前情報が得られるはずだよ!」

 と、ご家庭では簡単に真似できない対処法を客席に投げ返した。

 しかし、ここでもスマイリーキクチが割って入る。

「ちょっと説明を加えますが、それウソじゃないんです。本当にジモンさんが日頃からやっていることなんですよ」

 なんでも、スマイリーが自衛隊官舎近くに住んでいた頃、ジモンから「毎朝、官舎の様子を見てこい!」と頻繁に偵察指令が下されたらしく、その面倒さに大迷惑していたと事実を裏付ける証言がなされた。

 すると「それが何か?」とでも言いたげな表情でジモンが平然と続ける。

「いいかい? じゃあ今日はライブだからもっと良い方法を教えてあげようか? 日本国の最高権力者である総理大臣が官邸にいるか、首都圏を離れたか、総理の居場所を把握して非常時を判断するの! ホントだよ。だから俺は、番組で知り合った小泉総理の息子の小泉孝太郎くんに電話番号を聞き出して、その後、さりげなく彼に電話して、世間話のフリをしながら、毎日、父親の行動を確認するの!」

 百獣の王たるものライオン総理の動静を知るべし、というわけか……。

 衝撃的かつ全く無意味な、最高権力者へのストーカー行為を告白して、この日は散会となった。

 

 さて7年前は、まだ、このレベルの境界人だったジモンだが、その後はご存じのように、身に付ける「筋肉」から胃袋に収める「牛肉」へと大きく方向転換した。

 肉へのこだわりを全面に押し出し、グルメ本を次々と出版。今ではデパートでフード・イベントをプロデュースすれば、なんと10万人以上も動員する、文字通り、これで“食っている”状態だ。

 その代わり、ジモンの超人ぶり、変人ぶりは巷間伝えられなくなった。

 営業フィールドを広げるタレントの戦略としては、これは間違っていない。しかし、この転身は多くの視聴者からすれば、ジモンが超人から一介のグルメタレントに成り下がったともいえ、武井壮がジモンの実力に疑問符を付けるのも致し方ないのかもしれない。

 しかし、既に実力測定の場で「記録」を残し、今、着実にのし上がって来ている「百獣の王」武井壮に、かつての「百獣の王」寺門ジモンの「伝説」が果たしてどう対峙するのか。

©近藤俊哉 /文藝春秋

 時は来た!!

 

 2012年11月30日――。

 再び、この日に戻る。

 六本木での武井壮との対談の流れから、この決戦が同日に行われることを偶然聞きつけたボクは、四谷の太田プロへと向かった。

 オフィス北野が設立される前、ビートたけしとたけし軍団は太田プロ所属だったので、四谷の雑居ビルの一室にあった旧オフィスには通い慣れていたが、現在の新オフィスに引っ越してからの太田プロを訪問するのは初めてのこと。

 新しいオフィスは瀟洒(しょうしゃ)なビルのワンフロアで、その広さと清潔感漂う雰囲気に度肝を抜かれた。今や多くのアイドルも所属する大手芸能事務所に相応しい華やかさが随所に感じられ、芸人専門かつ零細企業であったかつての太田プロの面影はどこにもなかった。

 20代の頃から知る旧知の経営陣、マネージャーなどに挨拶を済ませると、ボクは応接室のドアを開けた。

「おおお、オイ! 博士ぇ、なんでこんなところに居るの?」

 いち早く先乗りして待機していたジモンが突然のボクの乱入に驚く。

「偶然、さっきの仕事が武井壮と一緒だったので、ジモンさんとの対談を見届けに来ました」

「さすがは博士だなぁ。でも……」

 ジモンは寂しそうな眼差しでポツリと呟いた。

「今日で終わっちまうから……」

「終わるって?」

「うーん。彼には本当のことを言ってあげないとねー。だって『百獣の王を目指す!』なんて言った時点で、彼はまだ本物の百獣の王に遭ったことがないってことが、分かる人には分かっちゃうからねー」

「え? 本物の百獣の王って?」

「いるよぉ!」

「……どこに?」

「ん!? 分かんないの?」

「…………」

「今、博士の目の前に立ってるじゃん!」 

 ジモンは自らを指差し、そして、軽侮と憐れみを交えた表情で全盛期の細木数子の如くズバリ言い放った。

「彼、死ぬよ!」

©文藝春秋

※寺門ジモンエピソード登場の、水道橋博士さんと岡宗秀吾さんの対談を読めます

http://bunshun.jp/articles/-/6158

http://bunshun.jp/articles/-/6163

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