このところ、周東佑京の打席に注目が集まっている。

 いや、周東といえばバッティングよりも「足」じゃないか。WBC準決勝・メキシコ戦のサヨナラホームインの神走塁は未来に語り継がれる名シーンだ。しかし、打席での手元をよーく見てほしい。

 ほかの選手に比べて、明らかに異質な形状をしたバットを使っているのだ。いわゆる「こけしバット」という代物で、グリップエンドが極端に大きく、こけしの頭のような形をしているのがその名の由来となっている。

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「こけしバット」を手にした経緯

 5月27日のロッテ戦。周東は2番三塁でスタメン出場すると、3回裏の第2打席で球団公式中継のカメラがそのバットに気づき、手元がズームアップされた。解説の坊西浩嗣さんと実況の大前一樹アナがすかさず反応。そこに中継レポーターの海里さんが「来た!」とばかりに、事前準備していた「今は周東選手の手元に1本しかない貴重なバットだそうです」といったエピソードを紹介した。

 これをキッカケに一気に認知度が上がった。周東が打席に立つたびにファンの間で「なんだあのバットは?」「バット替わった?」などとSNSが賑わうようになった。

 周東はこの日無安打に終わったものの、30日の交流戦開幕戦の中日戦では2安打を放ち、そのうち1本はライト前へ鋭い打球をはじき返す適時打となった。

 筆者も気になって試合後の帰りを待って球場通路で直撃。今年はようやく選手取材が緩和されたおかげで、気づいた点やホットな話題をすぐに立ち話で訊ねることができるようになった。完全に元通りにはなっていないが、それでも本当にありがたいことだ。

――1本しか手元にないバットと聞いたけど?

「そうなんですよ。だから折れたら終わり(苦笑)。頼んでも時間がかかるらしいんですよね。ただ、まだ頼んでなくて、今は試し段階なんです」

――手にした経緯は?

「もともとはWBC中に使ってみたいと思って、メーカーの方に普通のバットを頼んだんです。5、6本届いたんですが、その中に1本それが混じってて。アメリカで流行っているし、向こうでは使っている選手もいるから試してみますかと言われたのがきっかけでした」

 何と、こけしバットがアメリカで流行しているというから驚いた。

 調べてみるとWBC米国代表の主砲だったセントルイス・カージナルスのポール・ゴールドシュミットも去年からその形状のバットを使用して打率.317、35本塁打、115打点の好成績をあげてナ・リーグMVPに輝いていた。他にも数名の有名メジャーリーガーが使っているという記事を見つけた。侍ジャパンだったラーズ・ヌートバーも一時使用していたらしい。

 そして、米国では人気スポーツのアイスホッケーのパックの形に似ていることから「パックノブ(PUCK KNOB)バット」と呼ばれているようだ。

山崎スカウトからヒントを得た?

 日本で「こけしバット」といえば、長年の野球ファンならば大洋ホエールズで1980年代後半に「つなぎの4番打者」として活躍した山崎賢一選手を思い出すだろう。その山崎さんは現在、ホークスでスカウトをしている。周東の担当スカウトではないが、もちろん互いのことはよく知っている。

 とはいえ、山崎さんが現役プレーヤーで活躍した時期は、27歳の周東がまだ生まれる前のこと。

――もしや、山崎スカウトからヒントを得た?

「いや、違います(笑)。むしろ『こけしバット』を知らないです。山崎さんが使っていたというのも、今知りました」

――山崎さんのバットは1キロを超えていたと聞くけど、周東選手のバットは?

「930gです。もともと880gのバットを使っていて、グリップエンドに50g分がくっついたという感じです」

――どんな感想ですか?

「難しいバットだけど、面白いと思いました」

――ただ、練習では普通のバットで打ってますよね?

「1本しかないバットだから折ったら大変ですから。ただ、それもありますけど、練習で使うとバットの先が出過ぎてセカンドゴロばかりになる。それが嫌で、練習では普通のバットで打っています」

 練習と試合で違うバットを使って打ててしまうのだから、やはりプロ野球選手はすごい。