「僕のやりたいことも課題も解決してくれるバットなのかな」
ただ、それでも操作の難しさも口にした。
こけしバットは重たくなる分、力任せに振り回しても上手く操作はできない。しかし、昔の野球選手はよく言っていたが、重いバットはその重さを利用してストンと落とすような感覚でバットを出すことで最短距離の無駄のないスイングができるのだという。重心が手前にあるこけしバットの場合は特にそうだ。
周東が中日戦でライトへ引っ張り鋭く弾き返したときの打席は、まさしくそれを体現したスイングに見えた。
――あのライト前ヒットの手ごたえは?
「たしかに去年までにはない感覚で打てたヒットでした。先日、山下(舜平大)くんからのホームランもそうでした。振ってないけど、打球が鋭く飛んでいく感じでした」
このバットはロッテ戦以前から使っていたようで、5月14日のオリックス戦で剛腕・山下舜平大の154キロ直球をライトスタンドに打ち返した今季1号アーチを生んだのもこけしバットだった。
――使ってみてどんな効果を感じますか?
「僕の場合、周りから振りすぎるなよと言われますが、僕は当てに行く打撃はしたくないんです。ただ、このバットは力任せに振ると使えない。かといって、当てに行くような打撃では重いから振れない。つまり、僕のやりたいことも課題も解決してくれるバットなのかなと思います。試し段階ですが、正式にお願いしようかなと思い始めています」
俊足選手あるあるだが、三遊間に転がせば内野安打になるのになどと周りからどれだけ言われようとも、周東はずっと首を横に振り続けてきた。
「僕、グラシアルになりたいんですよ」
以前もそんな風に言っていたし、今年WBCから帰ってきた直後も「メジャーリーグの一流選手を見て、やっぱり野球はフィジカルだなと思いました」と話していた。
長く活躍するために、もっと上を目指したい。周東は常々そう話す。
人間は年齢を重ねれば、筋肉の質の変化などによって瞬発系から持久系の体に変わっていくともいわれる。
ところが、周東は先日、こんな告白をした。
「ベストタイムを更新したんです」
ペナントレース開幕から間もない4月11日の試合前練習のこと。PayPayドームの外野グラウンドで30m走のタイム計測をしたところ、昨年までの3秒84を塗り替える3秒78を記録したという。
この男、やはり規格外の神足だ。
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